5.
「なぁ…」
坂本が静かに口を開く。
井ノ原は南風を抱き締めながら顔を上げた。
「お前は、何だ?」
「―ぇ?」
唐突な質問に驚いて井ノ原は間の抜けた声を出した。
「何って…警官?」
「そういう意味じゃなくて…お前は普通ではないだろ?」
「普通じゃないって何だよ…確かに…テンションは高いけど…」
井ノ原の腕の力が抜けたのを見計らって南風がするりと井ノ原から離れた。
「気付いてないだけなのか?」
「だから何!」
「こいつらは異に敏感だ。特に東風」
ちらりと東風を見てから坂本はソファーに体を沈めた。
「悪いものではないが、…お前は何だ?」
「何…って…」
困惑したような井ノ原の視線は東風と坂本の間を右往左往した。
「質問を変えよう、お前はどんな能力を持っている」
「能、力」
びくりと井ノ原の肩が揺れたのを坂本は見逃さなかった。
鋭い瞳で井ノ原は見詰める。井ノ原は狼狽を隠すように笑った。
「どんな犯人でも捕まえられる敏腕警官とはこの井ノ原快彦のことだよ!」
「誤魔化しはきかない。なぁ、お前…灯送人じゃないか?」
「ひおくりびと?」
きょとんと坂本を見た井ノ原の顔は、
本当に何も知らないような阿呆面だった。
「何それ」
「灯送人とは死んだ人間の魂を送ることの出来る人間のことだ。
厳密には違うが、死―特に成仏や浄化を携わる」
「成仏…」
ぽつりと呟やかれた声は微かに震えていた。
「心当たり、あるんだろ」
「…うん」
小さく頷いた井ノ原を坂本は立ち上がって自分の前のソファーに座らせた。
「お前が灯送人だとして話を進めたいんだが」
「………」
「お前の力を貸して欲しい」
えっと顔をあげた井ノ原の瞳に真剣な顔をした坂本が映った。
「そんなこと言われても…俺何も知らないし!
ていうか坂本くんは何でそんなこと知ってんだよ!?」
井ノ原は声を荒げた。知らない、何も。
なのに彼は知っていて話を進めてしまう。
「俺は綱遣。普段はこいつらを使役する召還師みたいなものだ。
こいつらは異の物で、普通の奴には見えない。つまり」
坂本の視線が井ノ原を射抜く。
「お前は普通ではないということさ」
その言葉に井ノ原は何も言うことが出来なかった。
6.
知りたいと、強く思った。
「協力したら、教えてくれる?」
「何について?」
「全て」
その声は凛としていて、
さほど大きくない声だったにも関わらず薄暗い部屋に響いた。
「…いいだろう」
坂本は静かに頷く。
そして、じゃあ、と身を乗り出した井ノ原の手を掴んだ。
「我呪う、誓破らんと為者に不幸悲痛を与え賜ん。序其の壱、契」
幾何学的な模様を井ノ原の手の甲に書きながら何かを唱える。
最後の一言をいうとそれは一瞬真っ赤に光り、そして消えた。
「…何今の…」
「呪い」
「…契約成立?」
「ああ」
「…どんな呪い?」
「裏切り者には死を」
爆弾発言に井ノ原が眼を見開いた。それに坂本が驚く。
「眼が開いた!?」
「えぇ!?そこ?!ってえぇぇえぇ!?」
「ちゃんと見えてるのか心配だったんだ」
「心配するもんじゃないから!見えてるし!!」
毒気を抜かれて脱力した井ノ原は机に突っ伏した。
7.
「人間には種族があるんだ」
「解るよそれくらい」
「…お前が想像してるのとは違うよ。
人は陸人、空人、海人、森人の大まかに4つに分けられる」
井ノ原が首を傾げた。
「陸の上で生活する俺らは陸人に分類される。
海中に住むのが海人、森中に住むのが森人」
「じゃあ空人は空に住んでるの?」
「ああ、―解りやすく言えば天空の城だよ」
「へぇー」
っていうかさ、と井ノ原が不思議そうにいう。
「鰓呼吸?」
「いや…能力が違うだけだ」
「能力?」
繰り返した井ノ原に坂本は頷いてみせる。
「空人には羽根が有り空を飛べる、
森人は平和で綺麗な森を好む長寿の種族だ、
エルフとかドワーフを想像すればいいさ」
「羽根!?長寿ってどれくらい?」
「一般的には壱千万と言われる」
「わかんねぇ…」
頭を抱えた井ノ原に軽く笑って坂本は葛葉を撫でた。
「あとさっ坂本くんは何でこんな所に住んでるの?」
高所恐怖症なんでしょ?
という言葉に眉を潜めて坂本は井ノ原から視線を反らせた。
「…世話になってる人のマンションなんだよ、此処。
上からの方が世界の変動に気付き易いだろうって…」
「こんな高いマンション提供してくれる人…」
「パトロンってやつだ」
「パッ!?パトロン!?」
ぎょっと驚いて大きな声を出した井ノ原を不振そうに見て
坂本は胸ポケットから煙草を出した。
井ノ原は坂本を凝視しながら坂本くんが…だって…でも…とぶつぶつ何かを言っていた。
その時タイミング良く窓が叩かれる音がした。
坂本は溜息を吐いてカーテンを開けにいくのに立ち上がる。
カーテンを開けると男が一人窓をノックして居るのが見えた。その背には、羽根。
「もう!何度もいってるでしょう!玄関から来て下さい!」
怒ったような坂本の声は少し震えていた。
懸命に下を見ないよう努力しているようだ。
しかし男は悪びれた様子もなく爽やかに微笑んで部屋に着地した。
羽根は一瞬で消え跡形もない。
「まぁいいじゃないか、久しぶりだな坂本、逢いたかったよ」
「…騙されませんよ」
「お前は元気そうだな、葛葉は元気か?」
はははと笑う男は随分整った顔をしていた。
坂本と二人で並ぶとある意味絵になる、
などと思いながら井ノ原は話に入れずにぼんやりと二人のやり取りを見ていた。
8.
「あぁちょっと!靴を脱いで下さいよ!」
「解った解った、ところで坂本、彼は誰だ?」
「―あ」
坂本のあげた声の調子で井ノ原は自分が完璧に
彼に忘れられていたことを悟って少し悲しくなった。
「えぇと井ノ原、さっき話した世話になってる東山さんだ。ちなみに空人」
「こんにちは、東山です。よろしく」
「こ、こちらこそ!」
流れるような動作で礼をした東山に井ノ原も慌てて頭を下げる。
「で、多分灯送人の井ノ原です」
「灯送人。ということは城島が」
「はい、明日会いに行くつもりです」
微かに笑みを浮かべて頷いた坂本に笑みを返して、東山は井ノ原を見た。
「先程話した、という坂本の僕の話ってどんなんだい?」
にっこりと笑った東山の笑顔は有無を言わせぬ強い物だった。
「えと…さ、坂本くんが凄くお世話になってて…このビルの持ち主だって」
「なんだ、悪口かと思った。他には?」
「……パトロン、だって」
言い難そうに小声で呟いた井ノ原に、東山は一拍置いてから笑い出した。
「そうか、そうだな」
「東くん!何がおかしいんです!?」
もう、と坂本が怒ったように言った。
東山はちらりと井ノ原を見てから坂本の腰に手を回し引き寄せた。
「井ノ原くんが想像しているのはこっちのパトロンだろう?こっちではね坂本」
驚いた顔をして固まっている坂本の耳元で笑いを押し殺したように東山が囁いた。
「なっ!?…こ、後援者って意味だろ!?」
「えぇ!?そうなの!?」
酷く驚いた顔をしてから井ノ原は深く息を吐いた。
「ほっとしたぁ〜いや、別に坂本くんがそうでも偏見はないけど!ないけどびっくりした〜!」
「お、俺の方が驚いたよバカ!」
真っ赤になって坂本が怒鳴る。東山はくすくすと笑った。
End...
ええとええとええと…何かもう何も言えないっていうか。
存在を忘れていた話だったので、キリリクありがとうございました。
これって…話終わるまでがキリリク、ですか…!?(滝汗
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