-の駅-






それはまるで小波のように
そして荒波のように

月の引力に引かれるようにまた
俺も貴方に惹かれたのかも知れない。
始まりは最終点。
そして中間点であり出発点であるこの駅から。

出逢いは偶然であり、
そして必然であった。











tation cea












それは雲一つ無い青空の下に在った。
海に囲まれた狭い土地の端に、この町で唯一の都会へ出て行く手段、電車の小さな駅。
田舎にあるにもかかわらず、駅はお洒落な骨組みにガラスのドーム型をしていた。
遮られることのない光が煌々と差し込み。明るい空間を作る。
しかし中は風通しが良くなっており、吹き抜ける海風のせいで暑くはなく、快適な温度を保っていた。
一日の電車の本数が少ないので、乗り過ごすと時間を潰すのが大変な、
本当に何も無い田舎町だった。


はぁ、と息を吐いて山口達也は駅のベンチに座り込んだ。
砂を落とすのに手間取っていたら乗るはずだった電車を乗り過ごしてしまったのだ。
あと2時間強も待たなくてはならない。
達也は時計を見てからもう一度溜め息をついた。


先程砂を落とす、といったが、達也の趣味はサーフィンだった。
ここら辺の海は開発の為の業者の手が入っておらず綺麗なため、ちょっとした穴場だった。
何故穴場かというと、遠いからだ。都会から可成り離れ、
しかも交通手段は一つ、電車しかないため殆ど地元の人間しか訪れないという。
つまり、遠くの人間はボードの持ち運びが困難なのだ。
達也はちょっとしたきっかけをもとに地元の人と仲良くなり
その人の家にボードを置かせてもらっている。
だから行き帰りを手ぶらでサーフィンを楽しめるのだ。
きっかけは、台風の被害を被って壊れた屋根を直してあげたこと。勿論無償で。
本業が大工の達也にとっては造作ないことだったのだが、家主はとても喜んで、
達也にいつでも来たときは家によって欲しい、大したもてなしは出来ないが歓迎すると言ってくれた。
一人暮らしのおばあさんだった。
達也はきっと話し相手が欲しいのだろうと思い、了承した。
そして、ボードを預かってもらえるようになった。(ちなみに、行きは迷惑承知で電車で運んだ)
それから達也は仕事が休みの時は海に通うことにした。
何もない町がかえって心を落ち着かせなくしたが、達也はこの町が好きだった。





















まだ30分と経っていないのに達也が大欠伸をした時、視界の端に紫が横切った。
はたと動きを止めて怪訝な顔をしてから達也は顔を横に向ける。
その眼に捕らえたのはサングラスをぁぇて紫色の服を着た背の高い男だった。
ひょろひょろとしていてそんなに背が高いようには見えないが、
柱の高さから推測すれば、180ちょいあるだろう。
紫の服を着こなしている。この町に似合わない男だと思った。
都会、しかも銀座にいそうだ。職業、ホスト。
そう考えて苦笑した。
意味のないくだらない妄想。時間はたっぷりある。やることは何もない。
なのにこの時間が勿体ないと思ってしまうのは何故だろう。
常に時間に追われて生きてきたからだろうか。
そう思いながらぼんやりと男の背中を見送った。
この町はそんな気持ちとは無関係なのだろう、きっと。
年寄りが多い海の町。
訊ねてくる者は極僅かで、出て行く者は既に出て行った過疎の町。
それ故に綺麗だった。
手の加えられていない海の、日の光を跳ね返す様は、まるで別世界。



























それから15分が経って、達也は立ち上がった。
散歩でもしてこようと思い改札に向かう。
駅員に事情を話して外へ出してもらった。
ガラス越しでない青空の下体を伸ばす。鳥が自由に空を舞い、一枚の絵のようだ。
達也は顔に手を翳し空を見上げた。
空はあんなにも広い。そして深い。
あの海に潜れたならば。
そう考えてゆるりと首を振った。ばかなことを。
海でも空でもいい、溶けて一つになってしまえたら。
そう思う今日の自分はらしくないと、思わず苦笑した。
何が悪いわけでもない。此処の開放的すぎる空気に戸惑っているのかも知れない。
時間に追われ行き急ぐように暮らす都会では考えられないほど、此処は静かだった。
腕時計が無いと時間が解らず落ち着かない気持ちに駆られる。一種の病気のようだと達也は思う。
いや、病気なのだろう。何かに追われているような錯覚は。
ふと視線を地に下ろす。視界に映ったのは、蹲った一人の男だった。
思わず駆け寄る。と、そこに強い風が吹いて、
男が地面に落としていた茶封筒から紙が高く舞い上がった。
達也は駆け、紙を掴まえる。それは思ったよりもあっさりと達也の手中に収まった。


「…大丈夫ですか?はい、これ。また飛ばされてしまいますよ?」
「…ありがとぉ」


男が顔を上げる。達也よりも年上だろう彼の柔和な顔には笑いじわが刻まれていた。
はにかんだような笑顔を思わず凝視して、それをごまかすように達也もまた笑顔を浮かべた。


「大丈夫?送ろうか…ええと?」
「城島です。城島茂。あなたもしかして山口さんでしょう」
「え…何でそれ」
「ここは、狭い町ですからね。外から人が来ればすぐに分かる。それがいい人だったらなお」
「…一人で暮らして?」


照れた達也が話題をずらして訊ねると、城島は軽く首を振って否定した。


「イイ男と二人暮らしや」


くすくすと城島は笑う。深読みしていいものか達也は困った。


「山口さんは、一人暮らしなん?」


都会の家賃は高いやろー?と城島が首を傾げれば、少しぱさついた髪が一房肩を滑り落ちた。
どうして伸ばしているのだろうと疑問に思う。
城島は応答してこない達也に不味いことを聞いてしまったのだろうかと内心焦っていた。


「その、まぁなんや、触れちゃいけないことやったなら…すまん」
「え?あ、ごめん考えごとしてて…うん、一人暮らししてるよ。家賃は高いね」


家賃払ったら貯金する金が残らないもんね、と達也は大袈裟に溜め息をついてみせた。
城島の表情が緩む。何故かほっとして笑った。


「城島さんはさ」
「あー、別にさんつけなくてもいいで」
「そう?じゃあ、城島…くん?―…茂くん」


伺いをたてるように見れば、好きなように呼んだらええよと微笑まれた。


「じゃあ、俺もさんはいらないよ」
「お言葉に甘えさせてもらうわ。…山口」
「何?」
「電車、そろそろ時間やて」


え、と驚いて時計を見れば確かにもうすぐ時間で。約一時間も話していたことになる。
それよりも驚いたことは、それだけの時間で打ち解けたこと、
そしてここで別れてしまうのを惜しんでることだった。
城島はそうでもないのだろうかと達也は思う。そう考えると残念だった。




「ほんまに狭い町ですから」




そんな達也の気持ちを知ってか知らずか、城島が口を開く。


「また会えますよ。今度はうちにもきて下さいね」
「…はい!じゃあ、また!」


またを強めて、達也はとびきりの笑顔で城島に手を振った。城島も手をふり返す。
そのことにまた機嫌をよくして達也は駅に走り込んだ。
今度は、何か手土産でも持って彼の家を訪ねよう。
出逢いは偶然というけれど、必然であるらしい。だが、そんなことはどうでもいい。
出逢えたということが重要なのだ。過程はこのさいどうでもいい。
きらきらとマリンブルーに輝く海を列車の中から見ながら、達也はそう思った。
そう、小さく閉じこめられた空間に美しく輝く海は、まるで万華鏡。











End.





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ご、ごめんなさ…。
一度消して書き直す元気が在りませんでした。
当初よりも短くなってしまいましたが(中がどうしても思い出せなかった)
もらってやってください!あああのダメだったら書き直します。
そして達也さんが最後一緒に暮らさないで申し訳ない…。
リクエストありがとうございました!!