--------------------------------------------------------------------------------------------------------













空と海の境界線はあんなにも不明瞭なのに、
何故アンドロイドは人間になれないのだろう。



はっきりとし過ぎて逆に笑える。
どう足掻いたって俺は人間にはなれない。





彼らには、敵わないんだ。





彼らの祈りに似た希望は惜しくも崩れた。

俺は彼を守れなかった。
















俺の願いは、






人間のようなもの。













人間になりたいなんて思わない。
それは不可能なことだと理解しているし、アンドロイドな俺が坂本昌行なのだと思うから。







ただただ願うのです。

どうか、笑っていて。






プログラムされているからじゃなくて、
アンドロイドな俺でさえあなたの笑顔に救われていたのです。
あなたの笑顔に、掬われていたのです。







ロボットでも人間でもない中途半端な生き物は、闇の中で蹲っていました。

あなたはそんな暗闇に、光りを灯してくれたのです。




この喜びの感情は人間と何等変わりない、と言ったら生意気だろうか。





坂本は苦笑して、廃棄場の分厚い扉を押し開いた。





































中は蒼然としていた。
あちこちに鉄の塊が積み重ねられ山になっていた。
鉄屑、それは不必要な物言わぬ塵。

坂本は少し目を伏せて、それから顔を上げしゃんとした足取りで中に入っていった。



ロボットが創られなくなってからもう何十年も経つ。
その間に火葬炉は閉鎖され今は使えないようだった。

坂本は首を傾げどうしたものか考える。
取り敢えず鉄屑の山に身を投げ出し仰向けに倒れた。

鉄は、長い長い年月を掛け錆び、形が無くなりやっと自然に還る。
自然になかなか還れない、妨げになる物質。





あぁ、夢幻のようだ。





天井の朽ちた部分から光りが差し込み、蔦植物についた露がきらきらと輝いている。
















































「坂本!」
















































幻聴まで聞こえる。
あぁそろそろヤバイのかな。



「昌行!しっかりせぇ!」



違う。幻聴じゃない、幻覚でもない。
目の前に現れたシゲくんは本物。
その手の温もりは、本物。


「ごめんなぁ、僕、酷いこと言った」


きらきらと光っているのは、涙?
あぁどうしよう、また俺は彼を傷付けてしまった。


「僕、独りなんかじゃ生きられへん。坂本が居ないと何も出来へん」


城島は坂本を抱き起こした。



坂本は、城島が創った。

城島だけのアンドロイド。




「達也も太一ももう…なのに坂本まで居なくなってしもたら僕、生きていけへん」
「…マスター」
「坂本!」


応答した坂本を、城島は強く抱き締めた。
アンドロイドである坂本はそれくいらいでは痛くも何ともないはずなのだが、何故か痛みを感じた。







「生きてるんやもんな、昌行も」








城島は彼らからの最期の言葉を思い出す。





















『 茂くんへ


坂本を大切にしてあげてね。だって彼は創り出された生命だけど、それでも生きているんだから。
坂本は茂くんを護るよ、何があっても絶対に。そうプログラムしたからね。
でも、それは飽く迄ベースなんだ。坂本は学んでいくよ、人間の子供と同じように。
初めは茂くんが望まない護り方をするかも知れない、茂くんを疵付けてしまうかも知れない、
でも、見捨てないで。あなたが創り出した生命、あなたが坂本の親なんだから。
戻れなくてごめんね、でも、俺たちはずっと茂くんの味方だ。
何時までもあなたの幸せを願ってる。



達也・太一     』
























僕が、親。彼の生命の、創作者。
勝手に行動してと怒るのだったら物言わぬ命令に従順なロボットを創ればいい。


なのに、アンドロイドを創ったのは、




















「昌行、は生きてるんやもん。 僕と同じで、生きてるんや」



















その言葉にじわりと坂本の瞳が滲んだ。
それは、城島の涙と同じようなもの。



悲しかった。
城島と同じではないということは解っていたけれど、強く否定されて悲しかった。

寂しかった。
人間にはなれない自分は、決して城島と同じにはなれない。
人間の、城島の心は理解できない。



似て非なるもの。



同じなのは、生きているということ。

























でも、そう、生きているんだ。





























「お願い昌行、僕と一緒に生きて」
「シゲくん…」
「約束して、死なないって。殺さないとも」
「…あなたが望むなら、極力気を付ける。でも約束は出来ない」



如何なる場合でも、あなたが一番大切です。
知らない人間の命よりも、俺の命よりも、あなたの命は何よりも重い。




「今は、それでええよ」




城島はふわりと笑った。
坂本の好きな微笑みを浮かべて。

坂本もつられて笑った。
ぎこちなく、口の端を上げて。


















祈ることに縋っても、最後は自分で行動しなければ何も変わらないと、坂本はそう考える。



祈りは、時に力になる。
背中を押してくれる力に。





坂本は自分を抱き締める城島の背に手を回した。
自分よりも小柄な体は、それでも自分何かよりも大きかった。






伝わる熱も、脈打つ鼓動も、吐かれる息だって同じものなのに。




坂本は、腕に力を込めて、嗚咽を噛み殺した。






頬を伝った涙も、殺した声も、変わるものはないのに。




















「護ります、マスター。あなたと共に生き抜きます」






















生きてるんだ。








どうか笑っていて。

それが叶うなら何でもする。




























人間に、なりたいよ。





なんて、







































十字架に捧げた祈りなんて、俺は知らない。











































END








------------------------------------------------------------------------- - -
Wリーダー祭りこと「長老祭り」開催おめでとう御座います!
そしてありがとうございます!Wリーダー大好きです!!!

チェス盤上のナイト設定でWリーダーの噺です。
長くなってしまったうえしつこくて言い回しがしつこくてスイマセン;
そして案の定暗めになりました…。
皆様の作品が楽しみです。この噺が浮かないことを願って。

                                         2006/05/01 熾双 鬨播拝
---------------------------------------------------------------------------- - -










**















 
--------------------------------------------------------------------------------------------------------