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+ 煌月之如 +
サイアク、と俺は眉を潜めた。
今日は俺の誕生日なのに、街は死んだように静まり返っている。
麒刻の星だか何だか知らないが、異端が街に来るからだ。
俺は大層不機嫌に、道端の石ころを蹴り飛ばした。
麒刻の星と彼らは呼ばれた。
異なる力を持つ異端、星に帰れ、と侮蔑を込めて。
この星に生まれながらこの星から追い出されようとしている。
まぁ、俺には知ったこっちゃないんだけど。
だけど、どうして今日なんだよ。
俺の誕生日に来なくたっていいじゃないか。
俺はどうにも悔しくて、石を蹴るのを止めてそれを握り締めた。
冷たくてごつごつしてて、何だか無性に腹が立った。
ふと視線を上げると、黒のコートが眼に入った。
麒刻の星が来る日に外に出ているのは俺くらいなものだから、きっとコートの主は
麒刻の星。
ざり、と俺の足下の砂が音をたてて、麒刻の星が俺に気付いた。
俺の背よりもずっと高く、すらりと細い男だった。
仏頂面で、如何にも悪そうな男だった。
男は俺を一瞥してから何も言わない。
何だかバカにされているような気がして腹が立った。
「お前、麒刻の星だな!?」
喉が渇く。少し震えてる俺の手。
男はすっと眼を細めて俺を見た。
「だったら?」
「出て行けよ!」
「…良い度胸だと誉めてやるよ、でも年上に対する口の利き方がなってないな」
やれやれ、といった風に男が肩を竦めるのを見て頭に来た。
ぎゅっと拳を握って、冷たい感触に頭から血が引いた感覚。
俺は考える間もなく、石を男に向かって投げていた。
避けられなかったのか、避けなかったのか、
石は男のこめかみに当たって、地面に落ちた。
男は顔を歪めて俯いて、それからぞっとするような金の眼で俺を睨み付けた。
漆黒だったはずの瞳が、黄金に。
じわり、と男のこめかみから血が滲む。
ああ畜生、何で今日なんだよ。
俺は今日を恨めしく思って、死というものを覚悟した。
眼を瞑って暫くして、眼を開けた。
男は変わらずそこに立っていた。
瞳は漆黒に戻り、殺気はなく無表情に近い。
俺は何だか自分が惨めで、ほんの少し泣きたくなった。
男は俺をじっと見詰めると、踵を返して歩き始めた。
俺は驚いたけど、引き留めることも声を掛けることも出来ずにただその背を
見ていることしか出来なかった。
どうして、と、何で俺はあの時追いかけなかったんだろう。
ただただ何故か悔しくて、俺は口を引き結ぶしかなかった。
次に男に逢ったのはその日の夜、森の中で。
もう逢うこともないと思っていた矢先の出来事だったから、俺はそりゃあびっくりしたんだ。
男の方も驚いているようだった。
無視するのも気が引けて、ぎゅっと拳を握って男を見上げる。
ごつごつした感触は無くて、俺は少しだけ寂しくなった。
「昼間」
そう切り出しても男の表情は変わらない。
心に穴があいたような、ぽっかりとした虚無感は何だろう。
「何で殺さなかったの」
「誰が、誰を」
男の声は低く空気を揺らす。
ああ、案外いい声してるじゃん、とか俺は見当はずれなことを思った。
「あんたが、俺を」
「何故」
「…石、ぶつけた」
こめかみに視線を移せば、昼間のまま何もしていないようで、血が流れ固まっていた。
「お前は殺して欲しかったのか」
「まさか!」
誕生日が命日になるなんてごめんだね、と呟く。
男が微かに眼を見開いた気がした。
「そんなに簡単に人は殺さない」
「嘘だ。異端が人を虫けらのように殺すってのは有名な話だぜ!」
「…そうやって噂と先入観が浸透していくのさ」
男は話すのも無駄という風に頭を振る。
理解できない、と拒絶されているように思えてまた腹が立った。
「異端?同じ星に生まれながら拒絶された人間のことか?」
そんな俺を見て男が口を開く。
「同じ人間じゃないのか、お前等とどこが違う。
瞳が金になるから、簡単に人が殺せるようになるとでも?
そうやってお前等は俺等を異端に仕立て上げ、
自分たちがさも普通で高貴であるかのように振る舞う。では普通とは何だ」
「そ、れは」
「異端は人殺しか、まぁそれでもいいがな、それを押しつけるな。
俺は人間だ、自分がまともな方だと思ってる。簡単に人なんか殺せるかよ」
男の自嘲の笑みに、きゅうと胸を掴まれたように切なくなった。
何だかとても申し訳なく居たたまれない。
同じ心を持っていたのに。
高い矜恃を持っていたのに、
俺はその全てを否定して、傷つけた。
異端なんか知らないと、関係ないと思ってた。
誕生日に来るなんて最悪だと思ってた。
違うんだ、違ったんだ。
彼等は俺等の概念を押し付けられて、滅多に街に出てこれなくて、
出てこれても何も手に入らなくて、困ってるんだ。
可笑しいのは俺等だったんだ。
姿形は同じで、心だってちゃんとあって、
ただ一つ瞳の色が違っただけで解り合えないなんて決めつけて。
霞が掛かってた心に風が吹いて、スモッグを吹き飛ばしていった。
ワンピースだけ何処かに行ってしまっていた俺の心。
この男が、くれた。
見付けに行こうとも思わなかった。
無くしてしまったのを仕方がないと思ってた。
「…ごめん」
そっとこめかみの血を拭う。
血は、固まっていてとれなかった。
まるで街の人間の偏見のように。
男は何も言わない。ただ信じられないモノを見るように俺を見ていた。
信じてもらえないのかと、胸がしくしくと泣いた。
男は困ったように眉を寄せて、手を上げて、下げて、
少し宙を彷徨って、俺の頬を拭った。
ぎこちなくて乱暴で、少し痛かったけど、
それよりも触れた手のひらの温かさに、俺は懺悔した。
ぼろぼろと涙が止まらない。
男は居心地が悪そうに肩を揺すった。
そして聞こえてきた旋律。
あやすような優しいメロディー。
男の唄だった。
俺の為の唄だった。
そっと男の隣に座って頭を肩に預けると、男はびくりと震えたが、
すぐに何もなかったかのように唄を続けた。
そして気付いた。男が顔の割に繊細で、寂しがり屋で優しいってこと。
ごめん、と、俺は心の中でもう一度だけ謝った。
「俺、今日誕生日なんだ」
催促するように呟かれた言葉の意味を謀りかねて失敗して、男が訝しげに俺を見た。
俺は涙で濡れた顔のまま笑う。
「ねぇ、祝ってよ」
今度こそ男は眼を見開いた。
「俺、俺、勘違いして、ごめん。でも、俺、今日あんたに逢えてよかったと思ったんだ。
だから、あんたに祝って欲しいって思ったんだ」
「俺、が?お前を?」
「…嫌ならいい…」
「…残念ながら、何も無いんだ」
月を見上げて、男は悲しげに言った。
いいんだ、と俺は言う。
「おめでとうって言ってくれるだけでいい」
「…でも」
「じゃああんたの名前を教えてよ」
にっと笑えば、男はきょとんとした顔をしてから、笑った。
初めて見た男の笑みに眼を奪われる。
優しい、綺麗な笑みだった。
「Happy BirthDay、俺はマサユキ・サカモト」
「ありがと、俺はゴウ・モリタ!」
感情が高ぶると変わると言われるその瞳が、黄金に光る。
あんたも俺と敢えて良かったって思ってくれてるってことだよね?
恐ろしいなんて思ってごめん。
なんて綺麗な瞳なんだろう。
ああ、人間って勝手だね。
でも、本心だから。
「今日は最高の誕生日だよ!」
サカモトくんにそう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
きらきらと、星のように、月のように、サカモトくんの瞳が光る。
「今日の月みたいにさ、あんたの瞳、綺麗だね」
そう言ったら、サカモトくんがゆっくり瞬きをして、その瞳から涙が流れた。
俯いてしまったサカモトくんにつられて俺もまた泣いてしまった。
俺等は知らないうちに傷付け合って、
疵付いて、いっぱい心に涙を抱えて生きているんだね。
こうして俺は
また一つ年をとって、
また一つ大人になった。
END
剛+坂のパラレル剛くんハピバ小説。
おめでとうございます!!若いですね、まだまだ頑張って下さい☆
あーはー!ちょっと気に入ってたり (*´∀`*)ノシ
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