061117---




何してんやろ。



全く同じことなどないけれど、それでも殆ど同じ毎日に半ばうんざりしながら城島は思った。隣では坂本が欠伸を噛み殺している。


何してんやろ。


城島はもう一度同じことを思った。





* *






思い巡らせば、城島がこの研究所に入ってもう20年が経とうとしていた。その間に色々な研究をした。人を殺すための薬を作ったり、生かすための薬を作ったり、法を侵したり。
城島は坂本を盗み見る。しかし坂本が城島を見つめていたのでばっちりと目を合わすことになった。

「シゲくん、良い天気だね」
「―そうやなぁ」

城島は坂本の意図が解らなかったので、無難に返事をした。

「俺ね、いっぱい後悔したよ」

いつもとは違う子供のような喋り方に、城島は一瞬遠い昔に思いを馳せる。

「でもね、それ以上に楽しかったり嬉しかったりしたから、そんなに悔いてはいないんだ」

にっこりと笑って坂本は立ち上がった。城島はそれをぼんやりと見詰める。急に腕を引っ張られ、ふらつきながらも立ち上がり、そして歩き出す。

「何処行くん?」
「着けば解るよ」
「僕まだレポート纏めてないねんけど」
「どうせ飽きてたんだ、俺についてきてもこなくてもレポートは進まないよ」

そんなことは解らないじゃないか、とも思ったが、坂本の言う通りになるだろうことが予測できたので城島はそれ以上何も言わなかった。






「まあくん、しげるくん」

開けた温室の部屋には准一が居た。明るい緑に囲まれながら読書をしていたらしい。よく見れば、城島の研究リポートだった。

「遅いでまあくん、自分から呼び出しといて」
「ごめん、准一」

苦笑いしながら坂本は准一の頭を撫でた。

「シゲくん、座って?」

准一の横のイスを引いて腰掛けるよう促す。城島は迷ったが断る理由がなかったので素直に従う。坂本は二人の前に立って、徐にポケットから出したクラッカーを鳴らした。



「Happy birthday!」



ぱあんという音に驚いて、飛び出したカミテープを浴びながら呆然と坂本を見上げる。准一も驚いてぽかんと口を開けたまま固まっていた。

「シゲくんは36、准一は15の誕生日!」
「ふわ、俺まあくんとしげるくんに創られて15年も経つんか!」
「そうだよ、准。しげるくんと1日違いだから一緒にお祝いしような」

ね、おめでとう、と微笑まれても城島まだ動けなかった。忘れていた、自分の誕生日も准一の誕生日も。愕然とした。
坂本が准一にプレゼントを渡すのを見ながら城島は何してんやろ、と心の中で呟く。

「しげるくんには、これ」

渡されたのは鍵付きの小さな箱だった。見覚えがあった。何かは思い出せなかったけれど。

「俺が入ったばかりの頃、此処に馴染めなくて独りで泣いてた時、シゲくんが助けてくれたんだ。感謝してもしきれないよ」

坂本は眩しく微笑む。城島は焦りのようなものを感じた。
覚えていない。きっとそれは城島の中では取るに足らないことだったから。
そんな城島の心中を見透かしたかのように坂本は少しだけ淋しそうに眉を寄せた。

「覚えていなくてもいいんだ。でも、それのロック・ナンバーは二人で決めたやつだから、覚えていないと外せないよ」

勝手だけど、俺はそのナンバーを教えない。坂本は強く言い切る。

「捨ててしまっても構わない。俺の勝手な気持ちの押し付けでしかないから」

ごめんね、と謝られて、城島はただ瞬きを繰り返すことしかできなかった。

「今日明日の夕飯は腕に頼を掛けて作るから!」

楽しみにしててよね二人とも!そういって坂本は部屋を後にした。箱を見つめたまま身じろぎ一つしない城島を不思議そうに見て、准一は首を傾げる。

「しげるくん、開けへんの?」
「…どうやろ」
「俺のはね、カメラやったん。まあくん俺写真撮りたいいうたの覚えててくれたん!」

嬉しそうにはしゃぐ准一によかったなぁと返し、城島は四桁のナンバーキーを手に取る。
組み合わせにして10000通り、1日30個試しても1年とかからない。

「あんな、俺、説明書読んでくる!」

准一はカメラを持つとぱたぱたと音を立てて自室へ戻っていった。その後ろ姿を見送って、城島は数字を0000に合わせてみた。開くわけがない、それは解っていたけれど。
僕の誕生日…准一の誕生日…。数字を合わせて、ふと手を止める。坂本の誕生日が思い出せなかった。
何だかとても情けなくなって、ぎゅっと箱を握り締める。アンティーク調の箱はでこぼこしていて少し痛かった。
このまま放置しても別に構わない。そんな義理はない。しかし。それでは負けたような気がするのは何故だろう。


忘れてしまったロック・ナンバー。
閉じ込めてしまった楽しい思い出。
楽しかった?認めてしまうには釈然としなくて、でも否定するには理由が足りない。
そうだ、僕は逃げた。城島は自分の気持ちに蓋をしたのだ。
早くと急かされ必死に大人になったのに、坂本は何時まで経っても大人にならなかった。それが悔しかったのかも知れない。
そして二人で准一を創った。下が出来れば大人にならざるを得ないと思って。
坂本は確かに大人になった。城島に甘えるような言動は滅多になくなった。何時も隣には准一が居た。それが少し憎かったのかも知れない。
自分で勝手に大人になって、ちゃんと思い通りにことは運んだはずなのに、城島はその現状を認められなかったのだ。


「何、やってんのやろ…」


呟いた言葉は余りに大きく膨らみすぎて、形を作る前に消えていった。





End.


…ハピバ?
あの…計算があっているか解らないんですけど…;;;
と、取り敢えずおめでとうリーダー!!(苦笑)