じわじわ。



























焼けるような痛みに荒い息を繰り返す。
痛みの原因である脇腹に手を当てれば、温かい液体に手が滑った。
血だと認識するのにそう時間はかからない。
そうだ、自分は刺されたのだ。
畜生、と悪態を吐いた。
体が重い。服が、血を吸って重く感じた。


「何だお前、新顔?」


急に声をかけられて驚く。
しかし声は出ないし、視界も霞んで声の主の顔を見ることは叶わなかった。

「死にかけ?まあいいや、此処に入るにはあの人の許可が必要だから、
ついて…はこれないか。仕方ねぇから呼んできてやるよ」

声の主−…声の高さとシルエットからすると青年だろう−は、
一通り喋ると俺を置いて何処かに行ってしまった。





じわじわじわ。





雨が、俺の周りの赤を洗い流していく。

ジャリ、と、俺の頭の近くで小石が踏みつけられる音がした。






「生きたいか、死にたいか」





抑揚の無い声で男が言う。
いや、声の調子からして男だろうと思うだけだ。
俺は歯を食い縛って顔を上げた。やはり男だった。
背は−、隣にいる青年と比べるからか、高く見える。
すらりと細い体型は、獣の牙を彷彿させた。
男は何も言わない。再度繰り返す気は無いのだろう。
この場所がどんな場所で、この男がどういう男なのだか悟った気がした。




「−きたい、生きたい…っ!」




親友だと思っていた男に裏切られたり、親に捨てられても、それでも。

「復讐のためにか」
「−違う!」

そんなんじゃなくて、自分のために生きたいんだ。
恨むんじゃなくて、疑うんじゃなくて。

「(あいつにだって、そうしなければならない理由があったんだろうから)」

男が口端を上げた。

「甘いな、お前」
「あーあ、坂本くん気に入っちゃったよ!」

男の隣の青年が大袈裟に言って溜息を吐いた。
男はそれに片手を上げて応える。

「じゃあ、任せたぞ剛」
「わーってるよ。これで死なせたら俺の評判が下がるじゃん」
「頼りにしてるさ」

坂本は青年−剛の肩を軽く叩く。剛は誇らしそうに笑った。
俺はこれからどうなるのか解らなかったが、
此処で生きていていいと、認められたのだということは解った。


「おい、お前、名前は?」


坂本が言う。俺は、何故か泣きたくなった。
この汚い世界の中で、信じることは馬鹿らしくて、
名前なんて意味を持たないものなのに。

「井ノ原…井ノ原快彦…っ」
「へぇ…珍しい名前だな、なぁ、剛」
「そうだね」
「俺は坂本。こいつは剛、森田剛」
「よろしく井ノ原…くん。一応、年上みたいだから君付けしとくよ」
「お前の親はお前のために随分凝った名前を付けてくれたんだな」
「−…うん」

胸がいっぱいになって、溜まらず俺は泣いた。
雨は未だ降っていたけど、もう寒くはなかった。

きらきら光るものが見える。












     じわじわじわ。











血の広がる音なのか、優しさが沁みる音なのか、
俺にはもう区別がつかなかった。























[ の欠片 ]








END



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いつも励みになってますw

急に「拍手になるくらいのSS書くかぁ」
と思い立ち授業中書いてたもの(ちょ、
ちなみに親友はマボのことだったり。
スラム街みたいなものを想像していただければ…。















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