約束なんて、気休めでしかない。
守れない約束だとしても、お前がそれで少しでも納得するならば。
俺は笑って約束をするだろう。
「タカー奢って」
「却下」
「ケチー!」
「ケチで結構」
ぐでんと机に突っ伏した大下を一瞥し、鷹山は新聞に視線を戻した。
文字の羅列を追う眼は左から右へと動き、それが英字新聞だということが解る。
大下は口を尖らせて鷹山を見上げた。
「タカは」
「ん?」
新聞で顔は見えないが大下の視線を感じ、鷹山は先を促す。
「タカは死んじゃダメだかんな」
その呟くような言葉の意図を掴めずに鷹山は新聞を畳んだ。
大下は鷹山の左脇腹を見ている。
この前、血気盛んな若者に刺された場所だ。
「ユージ…」
「もっと言えば、怪我してもダメ」
「お前だって何度も死にかけてるじゃないか」
「俺はいいの!」
むぅと顔をしかめた大下を鷹山は呆れたように見た。
まるで子供の我儘だ。
君は精神年齢幾つ?
「そんなこと言ったらユージだって死んだらダメだ。怪我してもダメ」
「俺の台詞の使い回しじゃん!」
「うん」
頷いた鷹山に、今度は大下が呆れたような顔をした。
「ユージが怪我したらみんなが心配する。もし死んだら、みんなが悲しむ」
「…タカも?」
鷹山はその言葉に真剣な表情を一変し、からかうような笑みを浮かべた。
「さぁ」
「あ、それズリィ!」
くくっと喉で笑った鷹山が口にくわえた煙草を奪い取り、大下は己の口にくわえた。
「病人に煙草は毒よ、鷹山さん」
「はいはい、ユージくん火」
もう一本ポケットから煙草を取り出し大下に突き出す。
大下は笑ってライターを取り出した。
「タカ、約束しようぜ」
「約束?」
「そ、約束」
子供が悪戯をしようとしている時のあの笑顔で大下が言う。
ほら、と眼前に出されたのは小指。
「タカは、死なないの。もし死ぬんだとしても、俺の傍以外は許さない」
「…ユージも」
そう言って鷹山は大下の小指に自分の小指を絡めた。
「指切りげーんまん」
ぶんぶんと手を上下に振る大下にこっそりと笑って、鷹山は眼を細めた。
確約は出来ないけれど、心掛けようとは思う。
君がそれで少しでも安心するならば。
カチリと音をたててあがった炎は、紫煙と一緒に薄く消えていった。
End...
長編が進まないと短編が進むよね(何)

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