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2.


手術中の紅いランプが異様に毒々しく感じられ、
大下は気付かずに小さく舌打ちした。
過去何回かあった覚悟も、助かったあとは安堵に霧散して消えてしまい、
こうなる度にまた新しく、そして以前よりも重い覚悟を
強いられるのは些か酷なことだと思う。
それでも相棒は一人で走っていってしまう。
あの組のことになると、大下のことを忘れてしまう。
鷹山を心配してくれるみんなの存在を、忘れてしまうから。




「しっかりしろよ…」



その言葉は鷹山に、そして自分に向けられた呟きだった。



































赤いランプが消え、鷹山が運び出される。
酸素マスクをつけられた鷹山の顔は青白い。
まるで生きてないように見えて、大下は拳を握った。


「先生、鷹山は…」
「一命は取り留めました。
どうやら撃たれたのとは別に熱があったようで、体調不良ですかね。
もう少し自分を労って欲しいものです…。止められるなら、止めてあげてください」
「体調、不良…」


不意に透の言葉を思い出し、愕然とした。
相棒の自分よりも、後輩の方が鷹山をよく見ていた。
自分は少しばかり、過信しすぎていたのかも知れない。
己の相棒のことを、そして自分の位置を。

そして思い知る。

隣にいるからと言って、相手を理解できることとイコールにはならないのだ。
大下は医師に頭を下げ、鷹山を見送った。
医師は大下を見詰めている。その顔には、微笑。
大下は訝しげに医師の顔を見上げた。

果たして本当に熱だけだろうか。
ふと疑問が首を持ち上げる。
あの焦点があっていない瞳、呟き。
そう、まるで夢幻に捕らわれているような…。


「先生、本当にそれだけですか?」
「…といいますと?」
「隠していることが在りますね?」


疑問系でなく断定の口調で大下は続ける。



「タカは…誰に何をされたんですか」



いつもの飄々とした雰囲気は微塵も見あたらない。
その威圧感にも動じることなく、
医者−笹木野浩介は微笑みを湛えて立っていた。








「逆にお訊ねします」








笹木野は真っ向から大下の視線を受け止めて言う。



「あなたは、鷹山を守れますか?」

「−は?」



訳が解らない、といったように大下が眉を寄せる。
張りつめた空気の中発された声は、どれ程間抜けに聞こえただろう。


「あぁ…質問の仕方が悪いですね」


笹木野は気にせず続けた。


「あなたは鷹山を、どこまで認めていますか?
何があっても裏切らないと誓えますか?」


何故そんなことをあんたに言われなきゃならないんだ。

その言葉は音になってくれなかった。
笹木野は絶えず微笑を浮かべている。
今、それが嫌味に見えないのが不思議なくらいだった。










「俺、は」






この医者は一体何を知っているというのか。
警戒心よりも、表現できない何かが大下の心を覆う。
笹木野はそれさえ見透かしたように大下を見詰めていた。


「明日の夜までに答えを用意しておいてください、大下さん。
七時に「E qui」という店で待っています。夕食でも奢りますよ」


くすり、と微笑んで笹木野は一礼した。
踵を返し長い廊下の向こうに消えていく。
大下はその背が消えた廊下の先をずっと睨むように佇んでいた。














手元にあるパズルのピースは断片すぎて、とても全体像など解らない。
それでも幾つかの情報を大下は得ていた。

この医者が鷹山を知っていること。
そして今回の事件に大下の知る人物が関わっていること。
鷹山が、誰かに陥れられたこと。








































「タカ…」









大下は今傍らに居ない人物の名を呟く。
返事がないことは当たり前なのだが、
どうしようもない不安が過ぎるのはどうしてだろう。
大下は初めて足を運んだバーの片隅で、グラスを煽り項垂れた。














next...







どうしよう!話が続かない!!(常
書きたいのはタカの流血シーンだけだったからね!(2回目