「解っていたのよ…」
女はそう呟き地面に座り込んだ。
俯いた顔は見えなかったが、
それでもしゃんとした声に鷹山は眉を寄せる。
「彼は太陽なんかじゃなかったの」
女はそう呟いた。
「何が太陽なんかじゃなかっただ。
散々利用して、最後は見殺しにしやがって!」
鷹山は忌々しげに吐き捨てた。
鷹山は知っていたのだ、眼の前で殺されたチンピラのことを。
男は下っ端も下っ端で、組のもんにしてはどこか憎めない性格の持ち主だった。
女は、男が口説いて口説いて、やっと付き合うようになったのだと
わざわざ鷹山に報告しにきたくらいに男が入れ込んでいた女だった。
男は最期まで女を愛して、守りながら死んだというのに、あの女は。
「人は星なんだよ、タカ。
散りじりに個々で輝く。固まれば星座に、天の川に。
でも決して強くは輝けはしない。太陽にはなれないんだ」
「ならば月は。星と違い自ら光ることは出来ない。
太陽がないと輝けもしない衛生だ」
「…人は月でもある。
他人が、太陽がなければ輝けない。
でもやっぱり星っぽいかな?
燃え尽きてしまえば後は消えるのを待つしかない存在。
輝けるのは瞬きと等しい時間だけだ」
「お前は、…それでも輝き続けるんだろう。他の星より一等眩しく」
「…タカ、お前は自分を闇に喩えたよな」
「…それが?」
鷹山は訝しげに大下を見た。
「もし俺が輝いて見えるのだとしたら、それはタカが俺の隣に居るからだ。
タカが居るから、俺は輝いて見えるんだよ。
闇の中にいて初めて解る光だろ?光の中じゃ、解らない」
「ユージ…」
それに、と大下は続けた。
「人は太陽でも有り得るんだぜ、タカ。
自分では解らないだけで、他人から見たら光を与え
自ら燃え輝く太陽に見えるのかも知れない…。
タカ、お前は、…俺には眩し過ぎるよ」
少し照れたように笑ってくるりと背を向けた大下を、鷹山は眼を細めて見た。
それこそ、眩しくて眼を開けているのが辛いように。
「(お前は優しすぎるんだ)」
光の洪水が、闇をより濃く彩る。
鷹山は大下の背を穴が開くほどに見詰めながら、思った。
「(お前が傍にいると周りの闇が消えて俺だけが取り残される。
それでもお前の隣に居たいと思うのは、
自分の闇とはっきり向き合えるからだろう。
闇の中では影は解らないから)」
鷹山は大下に手を伸ばそうとして、止めた。
伸ばした手で届かぬ距離を計るのが嫌だった。
燦然と燃え続ける惑星(ほし)に手を伸ばすことは不可能。
そう、人は求め続ける貪欲な生き物。
欲しい物は尽きず欲は収まることを知らない、まるで自立した別の生き物のよう。
他人を騙し己を騙し進んでいく、先には、何がある?
失望でも絶望でも本当は構わないんだ。勿論、希望でも。
何時だって俺はそんなもの望んではいなかったし、これからも望んだりしないだろう。
それでも。手を伸ばしたいと思ってしまった気持ちに嘘はつけず、蓋をすることも出来ない。
それは奇しくもこの俺が、紛いなりにも希望を願ってしまったということだろうか。
それは一種の衝撃であった。今の俺なら空も飛べそうだぜ、Honey.
「…もし俺が太陽に見えるのだとしたら…それは見えるだけだろう」
え?と振り返った大下に曖昧に微笑んで、鷹山はそっと眼を伏せた。
闇は光を羨んだ。
隠しても隠しても隠しても、光は眩く自己主張し辺りを照らし出してしまう。
だから、形だけでも真似たかった。
真似という行為は愚かだろうか。しかしその行為がなければ物事が発展しないのも事実。
もしもその行為を指差して笑う者が居るならば、逆に指を差して嗤ってやろう。
いや、そんなことをする必要もない。ただじっと見詰めてやればいい。
その人間が笑い止み、辺りを見回すときまで。
もしかしたら鏡に映る自分かも知れない。それを、見極めなければ。
「…鏡のように見たままを映し出しただけの、所詮は紛い物。
自分では燃えられない。平面上で静かに対象を映すしか出来ない。
見せかけだけの冷たい太陽なんて…」
呟いた言葉は風に浚われて流されていく。
もう誰の耳にも届くことはないだろう。
それでいいと鷹山は思った。
羨みは妬みになる。
それだったら自分も負けないくらいに燃えればいいのだ。
出来ることならば、そうしたかった。
だってそんな感情なんて。
「要らないだろう?」
人は生きながらにして死ぬ術を探しているのかも知れない。
その、理由を。同時に生きる理由を探し、
殺人衝動を抑え込んでいるのではないだろうか。
かっとなった時でる手は人間の本来の姿。
暴力は枷を壊した人間が剥き出した本性。
己をも殺してまで、生にしがみつく意味は。
「恐怖なんて必要ない」
鷹山は戸惑いの表情を浮かべる大下に、慈しむような瞳を向けた。
「(だから、そうだな)」
「さよならだ、ユージ」
俺がお前を殺してしまわないうちに、俺はこの世界とさよならするよ。
きみが幸せになれるといい。
俺という壁はなくなりお前を縛る境界線もまたなくなるだう。
徐にホルスターから抜いた愛銃S&W.M49.コンバッド.マグナム。
最期の最後まで頼むぜ相棒。
大下の表情が面白いくらいに崩れるのを見た。
伸ばされた手は、ほら、届かない。
カチリという音は妙に軽く、耳をつんざく発砲音さえ軽やかで。
「タカ----------------------------------------------!!!!!」
俺を呼ぶ絶望的な声色は、心地、良い。
視界が霞みがかって、
鷹山は自分を抱きかかえた大下の顔を見ることが出来なかった。
それが少し惜しく思える。
最後に、見ておきたかったのだけれど。
人は氷の上に立っていると思わないか。
輝きすぎると足場が壊れてしまうのだ。
なんて、バカなことを思う俺はきっとそれを望んでいるのだろう。
愛というものがいまいち理解できない俺は他人を嘲笑う以前に自分を嗤う資格を持たない。
それは子供が何の悪意を持たずに人を傷付けることに少しだけ似ていると思う。
俺は自分のことを何も知らずに他人を救おうとしていた莫迦な動物だ。
いっそのこと言葉を知らない動物だったならどんなに良いだろう。
ただ相手を抱き締めるだけで良いのだ。温もりがきっと総てを伝えてくれる。
しかし俺は言葉を持った人間という生き物だったから、
言葉に出来ないことまで言葉にしようと少しばかり頑張りすぎてしまったのではないだろう
か。
今この瞬間でさえ彼に対する言い訳を考えている。
もう伝えることの出来る単語はたった一つだというのに。
「…Good-by、ユージ」
一足先に散らせてもらうぜ。
そう言って鷹山は瞳を閉じた。
「(そうだ、線香花火。
人生に似ていると思わないか?
だから人はあれを見て何とも切なくなるんだ)」
聞いてみたかったが、もう口は開いてはくれなかった。
ポツポツと頬に落ちる水滴は、温かかったが、すぐに冷めてしまう。
Good-by, Baby.俺は行くよ。
ハローハロー、俺の声はもう君に届いては居ないだろう。
それでも伝えたいことが、あるよ。
本当に、きみには感謝してるんだ。
―俺のために泣いているのか―
ああ、やっぱりそうか。
人生なんてものは、まっさらなキャンバスに描くもんじゃない。
もう其処に土台が出来ていて、それをどうやって壊していくかなんだ。
影の上には色はのらない。それはもう一つの色。
色鮮やかな人生なんて、逆に退屈だぜBaby.
彩られた影の上に、俺らは常に立っているのさ。
それが鷹山が最後に思ったことだった。
End...
ダークユージ書いてたんでダークタカを…と思い…。
(ファイルが見つからない…どこいったんだろうダークユージ…)
イメージ的にはユージはタカを殺してタカは自分を殺しそう。
ほら、タカは育ちが良いから(笑)
一応ハピバ!小説なんですがね(滝汗
ええと、題名は「冷たい太陽」で。

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