太一は洋館の入り口の前で、ぎゅっと資料を手で握りしめていた。
此処への簡単な地図と、主の名前の書かれた紙だ。
着くまでに時間がかかり、朝早くに出かけてきたというのにもう辺りは真っ暗だった。
やっとの事で辿り着いたというのに、この時間では訪ねるのはもう無理だ。
太一はため息をついて地図を見てからもう一度屋敷を見上げた。
薄暗く、人が住んでいる感じはしない。
ふと視線を柵の内側にやると、そこに人が一人立っていた。太一は驚いて目を見開く。
先程までは誰もいなかったはずなのに。
そんな太一の驚きをものともせず人影は近づいてきた。
「マスターにご用ですか」
淡々とした口調で女は太一に話しかけた。白い肌が闇と対して妙にはっきりと浮かび上が
り、洋館にあったミステリアスな感じが漂っていた。太一は無言で肯く。
「案内いたします。くれぐれもおはぐれになりませんよう」
太一を一瞥して女は背を向け歩き出した。太一は慌てて女の背中を追いかける。
追い返されるのだと思っていたので女の言葉は意外だったが、これは好機だ。
出だしはなかなか良好だと、太一は思った。
エントランスを通り階段を上り歩いていく。太一は女を見失わないように目を凝らした。
蝋燭の明かりは頼りなかったが、それでもこの深い闇の中では充分明るく見えた。
行く先だけ照らせばいい。後戻りは、しないと決めた。
「マスター、お連れしました」
廊下の奥の扉の前で女が一礼して誰かに呼びかける。中でカタリと音がしてから「お入り」と
いう男の声が聞こえてきた。柔らかい声だと太一は思った。
女はもう一度礼をしてから扉を開けた。
扉の向こうは灯りはついていないはずなのに不思議と暗くなく、青とも緑ともとれる光が部屋
を照らしていた。太一はそれがなんの光で、一体何処から照らされているのか全く解らず、
失礼だということも忘れてきょろきょろと辺りを見回していた。
「こんにちは、国分太一さん」
急に名前を呼ばれ太一は声の主を探し、凝視した。
声の主は男で、歳は良く解らないが、20代後半から30代後半くらいで、穏やかな笑みを浮
かべ太一を見ていた。
その目に光はなく、太一を案内した女とはまた違う、だけれどもやはり白い肌の容姿の整っ
た女に支えられて立っていた。
「あんた…」
「僕は城島茂言います。御察しの通り外の目は見えません」
そう言って城島は笑う。太一に椅子に座るように促すと自らも椅子に座り、指を鳴らした。
それを合図に太一を案内してきた女は城島と太一の間にあるテーブルに蝋燭をたて、城島
の後ろにたった。城島を支えていた女は部屋から出て行く。太一は訳が解らなくてじっと城
島を見つめていた。
「その、私は」
「緊張なさらすに、いつもの喋り方で結構ですわ。僕も敬語使う気ありませんしねぇ」
城島は西のイントネーションでのんびりと喋った。
「じゃあ、そうさせてもらう。"DOLLMASTER"に会いたい。創って欲しいんだ」
「何故?」
「―必要だから」
太一は城島を睨み付ける。目が見えないのでは彼が"DOLLMASTER"ではないと判断した
ためだった。
"DOLL"はとても簡単にいってしまえば精密機械だ。見えないので組み立てることは不可能
だろう。
そんな太一に微笑して、城島は質問を続けた。
「金はあるん?莫大な金がかかるよ?」
「幾らでも出せる」
言い切った太一に城島はふーんと何の感情もこもっていない声で言った。
「幾らでも出す!だからー」
「問題はお金やない」
声を荒げた太一に、城島は静かに言った。
「僕が判断する。受けるか否かを。此処では僕が絶対やから、覚えとき」
「俺はー! "DOLLMASTER"に会いに来たんだ!!あんたに用はない!!!」
「まだわからんのか?」
険しい顔の太一に、城島は冷たく静かな声で喋る。
「僕は"PUPPETEER"つまり此処の"DOLLMASTER"や」
驚きで言葉をなくした太一に城島は続ける。
「人を見掛けで判断して侮ったらあかん。いつか欺され命を落とすことになるで」
「―ごめん」
「ま、ええねん慣れとるし」
そういって城島は今度は笑ってみせた。そこにさっき出て行った女が入ってきた。
ティーセットを机の上に置いていく。綺麗な、見たことのないような柄だった。
「紅茶やねんけど…コーヒーの方がええ?」
「いや、大丈夫」
「おん、―さがっとき」
城島は女に手で合図を送る。女は一礼するとまた扉の向こうへ消えていった。
城島はカップを持ち上げ口をつけた。飲んでみせてから太一にも飲むよう促す。
別に毒が入っているなどと疑ってはいなかったので、何となくむっとした。
「さて、受けるか受けないかは別としてやね、先ずいっとく事があんねん。僕らは依頼者のこ
とは全部調べさせてもらうで?それでも受けるか?」
「当たり前だろ!」
「全部やで?洗いざらい全て。過去も人間関係も何もかもや。―それでも頼みたいちゅう覚悟
があるんやったら、3日後にもう一度おいで。答え合わせをするから」
「答え、あわせ?」
意味が解らないという風に太一は城島の言葉を繰り返した。城島はそれに頷く。
「僕が君について質問をする。君はそれに正直に答える。一回でも嘘をついたら命はないと
思って構わへんよ」
さらりと言ってのけた城島を、太一は真剣な顔で見つめ、そして頷いた。
「もし僕が引き受けて"DOLL"を創ったとしよか。君に渡してから半金を払わず逃げたり、
僕を殺そうとしても、君は死ぬ。例え殺し屋を雇ったとしても無駄や」
太一はごくりと唾を飲み込んだ。優しそうな顔に似合わず城島は淡々と話す。
柔らかい口調と、今の淡々と抑揚のない声のどちらが本物の城島なのか、太一は解らずに
いた。ただ、前者であって欲しいと、漠然とそう思った。
命が惜しいからとか、そう言う問題ではない。"DOLL"を創って欲しいといった時点で、もう
命は捨てたようなモノなのだ。
城島という人間が何故だか気に入ったからかも知れない。いい人だと思いたいのだ。
「僕たちは禁じられた手法で"DOLL"を創り動かす。かなりのリスクがかかるんや。だから厳
しいようやけど」
「解ってる、俺、絶対また来るから」
太一は城島を真っ直ぐにみて言い切った。城島は微笑む。
見えてないなど嘘のようだ。城島は太一の一挙一動を完全に把握していた。
「じゃ、3日後にまたな」
そう言って城島は指を鳴らした。奥の扉から先程の女が出てくる。そして「アルツ」と呼ぶと、
城島の後ろに立っていた女がテーブルの上の蝋燭立てを手に取った。
「紹介しとくわ。君を案内する「アルツ」や本名は「アーシュレイ」。よろしゅう。そして彼女は
「ジュリア」」
「宜しく御願いいたします」
「こちらこそ」
彼女たちに丁寧にお辞儀され、太一も深く頭を下げた。
「もし、万が一やけど気が変わるようなことがあってもええんやで?来ないでも」
「解ってるよ。それでも俺はまた来るから」
「―おん。じゃぁ、また会おう。さよなら太一くん」
微笑んで手を振られる。太一も笑って手を振り返した。
来た道を通って屋敷を出る。辺りは真っ暗なのに、何故か家に帰り着くまでの道程はほんの
りと明るく、魔法みたいだと太一は思った。
"DOLLMASTER"
失われた技術 と禁じられた術を用いて"人"を創り出す 呪われた匠。
END
続くと見せかけて続きません。先が途中までしか思いつかん;
こういう話つか傾向?好きだなーと思う。

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