Act1-4










がさりと茂みを掻き分けてくる音が聞こえ、長瀬は真っ赤に泣き腫らした目を擦った。

もうこの世に悪魔が存在しないことを長瀬は知らなかった。
だから、だれか軍の悪魔が連れ戻しにきたのかとそう思った。

しかし茂みから顔を出したのは、天使。

良く知った顔の天使たちだった。




「長瀬…」



太一は長瀬の羽根を見て驚いたような声を出した。
続いて出てきた井ノ原も健も剛も、松岡も、みな長瀬の羽根を凝視した。


「ど…したんだよ!その羽根…!!」
「何で悪魔が誰一人としていないんだ!?」
「なぁ長野くんは?!」
「茂くんは!?」


長瀬に駆け寄って質問攻めにする。
しかし長瀬は俯いてただ首を横に振るだけだった。






「止めろ」
「全部、解った」




静かな声が辺りに響いた。
立っていたのは山口と坂本。
そしてその手には一つの白い封筒があった。




山口はそれを塔の最上階の部屋で見付けたとき、握りつぶしてしまいたい衝動に駆られた。
しかし、出来なかった。それは彼らの想いであり唯一の証拠だったから。


彼らが何を想い、何を願い、どんな気持ちで実行したか。
何を託し、何を望み、そしてどんな気持ちでコレを書いたか。


確かに何も出来なかったが、どうして何もかも抱え込んでしまうのか。
一言相談してくれても良かっただろうに。


天使が何だ。悪魔がなんだ。

どうして、勝手に逝ってしまうの。


貴方が大切だったのに。



山口は唇を噛み締めて、目をきつく閉じた。
そうしないと感情が溢れ出してどうにかなってしまいそうだったから。


坂本はそんな山口を見て見ぬふりをし、手紙を受け取った。
書いてあったのは悪魔軍を消し去った魔法陣のこと、長瀬の羽根のこと、そして自分たちの
ことだった。




勝手なことをしてごめんなさい。

今まで想ってくれてありがとう。

言葉では伝えきれない想いを長瀬に託して、僕たちは風になる。

太陽の下光の中で、僕らは君たちの羽根になる。


何時でも一緒にいるから。

だから、決して悲しまないで。

これは今生の別れじゃない。


だから涙は要らないよ。





「長瀬は天使になった。悪魔はもう、居ない」



悪魔は、城島も長野も、もう、いない。

その言葉に松岡が長瀬に殴りかかった。
長瀬は抵抗しない。
松岡は長瀬を殴ろうとして、出来なかった。

彼が悪い訳じゃないのが痛いほど解っていたから。
それでも何もしないでいられるほど冷静でもなかった。
行き場のない怒り、それよりも悲しみが大きくて。
松岡は長瀬の胸ぐらを掴んだまま涙を流した。


「長野…くんも?死ん、じゃったの?」


健が震えた声で言った。崩れ落ちそうなその体を剛が支える。

坂本は瞳を伏せた。

叫んでしまいたい気分だった。
声が涸れるまで叫んで、拳が壊れるまで大地を殴って。

それですっきりしたなら、どんなにいいだろう。



「あいつらが、自分で決めて自分で実行した」
「長瀬には何も伝えないで無理矢理やったって書いてある。―…だから、長瀬は責めるな
だと」


項垂れた井ノ原たちに坂本は告げる。彼らのキモチを。


「―…長野も茂くんも、いつも俺たちと一緒だと」


君らが笑ってくれるなら、僕たちも幸せだよ。


「羽根であり、風であるってさ。笑えよ。んな顔すんな」


山口が太一の肩を叩いた。
松岡の背中を優しく叩き、そして長瀬の前に膝をつく。

長瀬は見開いた目から滴を溢していた。

最期の彼らの笑顔を思い出して。



「笑え」



山口は長瀬の頬を引っ張って無理矢理あげた。
そんな山口の顔の方が泣きそうだと、長瀬は思う。



「まだ、思い出じゃねぇだろ」



その一言にみんなが顔を上げた。
そう、まだ思い出じゃない。かれらはまだ生きてるから。

心の中だけじゃない。まだ触れ合える。



「え…へへ…」




長瀬は涙でぐちゃぐちゃな顔を更に歪めて、それでも笑ってみせた。










体でも心でも あなたはまだ私を感じられるでしょう。


























-EPILOGUE-





天界と魔界の狭間の無の草原に、彼らは立っていた。

あれから6年、彼らはこの草原に花の種を蒔いた。

今ではこの草原は色取り取りの花で溢れていた。


無、などではなくなっていた。



此処には彼らが居る。花もある。


青空の下光の中、風と戯れて、確かに彼らは生きていた。

彼らは笑顔だった。

どんな時でも笑っていた。



決して偽りではない微笑みを絶えず浮かべ、確かに彼らは存在した。







END



はい、終わりです。如何でしたでしょうか。
何かの本で幸せとは?っつーのをパラパラと見たら「欲を満たすこと」って書いてあった。
そうなんだけどさぁ…。なんか切なくなったよ。