坂本くんの声が、出なくなった。
声帯が傷付いたとかじゃなく精神的なものらしい。
それでも俺等は兎に角吃驚したんだ。
本人はパニックを起こすと思っていたから、冷静な彼を見て腹が立った。
驚きすぎて逆に冷静になっちゃったんだろうって長野くんは言ってたけど。
「(このままずっと声が出なかったらどうすんだよ)」
いつもとやってることは何等変わりない坂本くんを睨み付けながら俺は溜め息を吐いた。
坂本くんの傍にはB5サイズのスケッチブックとマーカーが置いてある。今の坂本くんの
意思疎通手段の一つ。
台本を読む坂本くんは、見た目今話せないなんて解らない。今にもこっちをみて何見てんだ
よ、って言いそうだ。
「(台本読んだって無駄かも知れないのに)」
俺の視線に気付いた坂本くんが、スケッチブックを取った。そして何かを綴っていく。
書いてあったのは一言のみ。
[何だよ]
「(あぁほんとにこの人は!)」
頭を抱えたくなった。この状況に俺の方が参ってしまいそうだ。
渋面を作ると、彼は逆に笑みを浮かべた。
[心配してくれるのか]
坂本くんの顔はスケッチブックに隠れて見えない。文字だけでは相手の表情が解らなくて
歯痒く思った。
「あんたは、心配じゃないの?」
もしかしたらもう声が出ないかも知れないのに。
大好きな芝居だって唄だって歌えない、電話も誰かと談笑することも出来ないかも知れない
のに。
[ストレス性だったらいつか治るだろ、もっと健みたいに前向きに考えろよ]
「でも、最悪の場合」
[それは仕方ないだろ]
一人で話してるのに会話になっているというのは変な感じがする。
それに、仕方がないなんかで済ませられる事じゃないと思う。
だって、声が出ないんだよ?
「抜ける、つもりなのか」
何を、とは言えなかった。
自分で声が震えているのが解ったし、きっと今俺は最高に情けない顔をしているんだろう。
坂本くんは無表情で俺を見る。何だか怒鳴りたくなった。
「(だって、そしたら)」
そう考えて気持ちが沈む。今度は泣きたくなった。
「(あの声で、もう呼んでもらえない)」
認めたくはないが、自分は坂本が好きなのだ。
親で兄弟で友達だった。だからショックが大きくて。
「[剛]」
音を発しない唇が剛の名前をなぞった。
「…んだよ」
「[大丈夫、だから]」
「…もとくん」
「[大丈夫、だから]」
治る保証もなく、期間も解らない。それでも彼は微笑んで大丈夫だと言った。
それだけで大丈夫なんだろうと思ってしまえる俺って単純。
ぎこちなくだけど、笑って頷いて見せた。
「じゃあ、頼れ」
そう言うと坂本くんは瞬きを2、3度してから意味が解らないといった風に首を傾げた。
坂本くんが冷静になろうと努めて笑うのは俺等に心配かけないためだろうから。
ホントはあんたが一番不安で心配なんだろ?
その強がりはかえって不安。弱さを見せてくれた方が嬉しいし、逆に安心だから。
「絶対治る!でも出来るだけ早く治したいから、頼れよ。あんたが思ってるほど俺等は弱くな
い」
「[ごお…]」
「(ありがとう)」
ふわりと微笑まれて、思わず眼を逸らした。
やっぱり素で礼をいわれると照れるな、なんて思いながら
俺は坂本くんの頭を普段されてるようにわしゃわしゃと撫でてやった。
END
剛+坂のお話。
声が出なくて本人よりも剛が落ち込んで(笑)
でも最後は元気になるお話(どんなだ

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