殺したい



頭の中で誰かが叫ぶ。











後ろの正面











殺せ殺せ殺せ殺せ




視線の先に居るのは、茂くんで。駄目だ、と俺は叫ぶ。
彼はダメ、俺が守らなくちゃいけない。

じゃあ、と誰かが俺に歩み寄る。
暗闇の中で氷の上に立って、動く度軋む足場に冷や冷やしながら俺は彼の顔を見た。




死になよ。




彼は俺と同じ顔をしていた。
俺はお前。お前は俺。
彼は-俺は笑って言う。死にたくない と。

だから 殺せ。
















「…也、達也」





体を揺すられてはっと覚醒した。
眼を開けると茂くんが心配そうに俺を覗き込んでいた。
夢だったのかと詰めていた息を吐く。しかし夢が夢なので茂くんの顔をまともに見
ることが出来なかった。

「悪い夢でもみてたん?何か…苦しそうやったから」
「うーん…覚えてないんだけど、俺何か言ってた?」
「…別に何も」

嘘をついた俺を茂くんは探るような目で見てきたけど、追及してはこなかった。






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嘘をついたことは解っていた。あんな真っ青な顔して覚えてないなんて言われて信
じるやつなんていない。長瀬だって気付くだろう。
だから僕も嘘をついた。本当は達也は寝言をいっていた。
僕を、殺せ、否殺したくないと。
精神的に追い詰められているのだろう。
あの寝言からいくと、原因は僕だ。


達也を追い詰めたのは僕。









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あれから良く夢をみる。俺が俺以外にもう一人いて、死か生を選ばせる。
彼を殺して俺が生きるか、彼を守って俺が死ぬか。

頭が変になりそうだった。



「茂くん、その怪我どうしたの?」


右腕を庇っているのを見つけて服を捲ってみると、包帯が巻かれていた。
彼は少し動揺したように顔を強ばらせてから転んだと苦笑いしてみせた。


「ふーん…気を付けなよ」


少し気になったけど、茂くんが鈍くさいのは今に始まったことじゃないし、狼狽えた
のは俺が怒ると思ったからだろう。俺が笑うと、彼もまた笑った。






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怪我の理由を達也が覚えてないなんて吃驚した。
そして僕は寝言の件も含めてある仮説をたてた。
あんまり例はないけど、有り得ないことはない。
もしかして達也はー…







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眠りたくなかった。でも体は素直で眠りを欲する。
眠るとあいつが来る。俺と同じ顔をした、誰か。
来ないでくれ、と願うのに。

















暗い暗い闇の中。いつもと同じ氷の上に。
まるでスポットライトをあびているように、俺と、あいつがたっている。

ただ一つ違うのは。
いつもは視線の先に居た茂くんが、あいつのすぐ近くに居たということ。


「茂くん…何でここにいるのさ…」


平常心を装ったつもりだったけれど、彼は全部お見通しだったらしい。


「達也」


彼が俺を呼んだ。
返事をする。あいつも一緒に。
違うのに。あいつは、茂くんを手にかけようとする。俺は茂くんを守るのに。
違うのに。違うのに、あいつは俺で、俺はあいつ。


「シゲっ!!」


あいつが茂くんの首に手をかけた。茂くんは抵抗をみせない。
ただ真っ直ぐあいつを見てた。


「ごめんなぁ」


それどころか。茂くんはあいつに謝ったのだ。
茂くんは悪くないのに。全部あいつが。そう思って茂くんを見る。
とても、悲しそうな顔をしていた。


「気づけなくてごめんなぁ達也。僕が、追いつめてたんやね…」
「何、いってんのさ…」


あいつを「達也」と呼んで、謝って。
違うよ。それは「達也」じゃない。


「達也は、僕のこと大切に思ってくれて、憎かったんやね」


あいつは喋らない。しかし茂くんは続ける。


「「達也」が気付かないうちに追いつめられて、「達也」が生まれたんやろ?
ーややこしいからタツヤて呼ぶな」
「何、を」
「達也。タツヤや。タツヤは、お前や。お前は、タツヤやねん」


彼は申し訳なさそうに瞳を伏せた。


「達也が、僕のこと凄く大切にしてくれてん、とっても嬉しいねん。でも、それがいつ
の間にか重荷になってたんやね。枷、ちゅうか。それでタツヤが生まれたんや…。
タツヤは僕が憎いんやろ?」


そう言って腕を捲って俺がどうしたのと聞いた怪我をみせる。


「タツヤやったんやね。道理で達也が知らんわけや」
「それ、どういう…」


まさかと、血の気が引くのを感じた。
当たって欲しくないと願ったのだけど。


「これ…タツヤに階段から突き落とされてん。ーそう高くないところからだったのは
達也が無意識のうちにセーブかけたからやったんやんね。
…ごめんなぁ達也、僕気付いてやれんで。ありがとう、タツヤ。達也の身代わり、してくれて」


そういって泣きそうな顔で笑った。
俺は何を言って良いのか解らなかった。
それでも漠然と、受け入れていた。あいつは俺、俺はあいつ。


「辛かった、ねんな。ー僕、どうしたらいいか解らんのや。やから、好きにし。
タツヤの好きにしたらええよ」


シゲが大切すぎて、憎かった。憎い癖に大切で。大切すぎて。
どうしたらいいのか解らなかったんだ。
だから俺は目隠しをして、しゃがみ込んだ。
いろんな誰かが俺を囲んで覗いたけど、俺は気付かないふりをしていた。

みんなが去ってしまった後も、俺の後ろには誰かが立っていた。
たった一人だけ、俺を一人にしてくれなかった。
そいつの正体が、解った。



後ろの正面 だぁれ?



俺だ。俺の中に潜んでいた凶暴性。
殺したいと、ずっと訴えていた。






俺、だったんだ…。






「シゲ、俺」
「えぇねん。僕が、悪かったん」
「俺…」




死にたく ないよ




そう思ったと同時にタツヤの手に力が込められた。
茂くんが苦しそうに空気を求めた。
無意識の生命維持のために求められた空気は彼の肺に入っていかない。
段々と力の抜けていく体。

違うんだ、と思う。

どうして片方なんだ。どうして両方を選べない。
一緒に生きていけばいい。二人で、いや、みんなで。
一人でもかけたら俺等じゃなくなる。
茂くんがいなくなったら、俺じゃなくなる。



ねぇ、やっぱり俺はあなたが大切なんだよ。

俺は俺だけど、あなたは俺でもあるんだ。
あなたが死んだら俺も死んだことになる。


不意にタツヤが消えた。
茂くんの体が力なく倒れる。
慌てて近寄ろうと足を踏み出した瞬間氷の足場が崩れた。
落ちていく。堕ちていく。
俺は必死に茂くんを引き寄せて腕の中に収めた。




あなたとなら 堕ちても構わない。

何よりも大切な人。
そう気付かせてくれたタツヤに感謝さえした。








はっと眼を開けると、そこは俺の部屋だった。

夢か思い、俺の上に乗っている茂くんをみて夢ではなかったこと知る。





その証拠に茂くんの首には、

俺と同じ大きさの手の後がくっきりとついていた。
















END



リセッタ。城島さんを理解してる山口さんが多いので逆を(捻くれ者
徒然書いてたら意味解らんようになった;あはは
現実のようなパラレルのようなホラーのような…モノを目指して中途半端/汗















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