茂くんが突然子供になってしまった。



姿だけでなく、思考も伴って幼くなってしまったらしい。
しかしメンバーやスタッフのことは覚えている。

普通に生きていたら有り得ないことを俺等は目の当たりにした。
有り得ないことなのに、実際起こってしまったのだから仕方ない。

俺等は子供化した茂くんの面倒を見ることになった。




そして早3週間…。









  手探り










「シーゲ」
「なんやたつやぁ」
「今日は海行こうな、海」
「―…みんなはいかへんの?」


上目遣いな幼いシゲの言葉は、表すならそうだな、漢字がない。
長瀬と同レベルになってしまっている(あいつの場合は片仮名が多い。解らない漢字は
みんな片仮名だ)
普段ならば誰も知らないような言葉だって使ってくるのに。


「行かないよ。あいつらだって忙しいんだから」
「でも、そしたらボクやぁ」
「我儘言わない!ほら支度して」


ぐずるシゲを部屋に押し込んで、俺は俺の支度を始めた。
中身はシゲだから、きっと渋々持って行くモノをリュックに入れているんだろう。

時々、シゲはとても大人びた考え方をする。茂くんだったら普通なんだろうけど、
今のシゲの外見には相応しくない思考。それが何時、どういう理由で出てくるのかは解らないが。

シゲはそこにいるのに手を伸ばしても届かないような不安感に苛まれる。






「たつや…」






いつの間にかドアの前にシゲが立っていて、俺を見上げていた。
はっとして笑顔を浮かべる。
子供は他人の気持ちに敏感だ。シゲは、特に。


「ごめんごめん、じゃ、行くか」
「じゅのんは連れてかへんの?」
「お留守番だよ」
「えーじゃぁボクもおるすばんー」
「ダ―――メ」


騒ぐシゲを抱えて車に乗り込んだ。
今日はやけに騒ぐな、と思ったけどこれが普通の子供なんだろうと自己完結して、
久しぶりの海にはやる気持ちを抑えた。




















海に着くとすぐ着替えてボードを降ろした。
車からなかなか降りようとしないシゲに苦笑して、抱っこした。

カナヅチは子供でもカナヅチなのだろうか。
だから海を厭うのだろうか。

そんなことはないか。海が嫌いな訳じゃないはずだから。


「いいか、シゲ、砂で遊んででも波で遊んでてもいいけど
通りの方や遠くに行っちゃ駄目だかんな」
「わかってんねん、コドモじゃないんやからー」
「コドモだろー、シゲは。ほっぺた膨らませちゃって」


ふぐみたいに両頬を膨らませたシゲの頬を軽く突っつく。シゲが松岡みたいに唇を
尖らせて何か抗議をしようとした時、俺のサーフィン仲間が声を掛けてきた。


「おーー久しぶりジャン、何この子隠し子!?」
「久しぶり、俺の子じゃねぇよ」
「ふーん。ま、いいや。今日は良い感じだぜ」
「マジ?!うわーはやく乗りてぇー!!」
「行こうぜー」
「おう!!!」


そして俺はそいつと一緒に海へ走っていった。


シゲのことも忘れて。


だからその時シゲの瞳が揺れてたことになんか気付かなかった。





それをあとから凄く後悔することになるなんて知らずに。

































































あれからどれくらい波に乗っていただろう。

波の状態は最高で、久しぶりだったということもあって俺はずっと海にいた。

そろそろ休もうと車に戻ると、シゲのリュックだけが車の脇に無造作に置かれていて、
シゲ本人の姿は何処にも見えなかった。



「シゲ…?」



呟いてみても返事があるわけ無く、俺はその場に固まってしまった。
しかし固まっていても仕方ない。大慌てで周りの人間にシゲを知らないか聞いて回った。

解ったのはシゲが誰かに電話していたことと、それから車に乗ってきた誰かに
抱っこされて反対側の浅瀬に行ったことだった。



俺は必死になって走った。



シゲに何かあったら。

それしか頭になかった。


























「やーぁーもーなにすんねんばかぁー」



























甘えたような幼い関西弁に足を止める。

砂浜で砂遊びをしているのはシゲだった。
その隣には、サングラスを掛けた若い男が一人。




「シゲ!!」




俺が駆け寄ると、シゲはその男の後ろに隠れた。
俺がシゲの方に手を伸ばそうとすると男にやんわりと阻止される。
腹が立って男を睨み付けると、それは良く知った男だった。


「ダメでしょ兄ぃ。茂くん一人にして遊んでちゃぁ」
「…松岡…」


仕事が有るはずの松岡は、呆然としてる俺の前でシゲを抱き上げてその頭を優しく撫でた。
シゲは嬉しそうに笑っている。
何だか疎外感を感じて眉を潜めた。


「茂くんね、俺に電話してきたんだよ」
「―…そりゃ、悪かったな、仕事中…」
「終わったトコだったから問題ないっしょ。それより兄ぃ、貴方の方が問題」


巫山戯て笑っていた松岡の顔が真剣な顔に変わる。
シゲは松岡の首に腕を回してしがみついて俺と目を会わそうとしない。


「サーフィンするときはメンバーの誰かに預けること、これ、約束して」
「だってお前等仕事あったじゃねぇか」
「誰もあいてないときはサーフィン禁止」
「―んでお前にそんなこと言われなくちゃならねえんだよ」


睨み付けると睨み返してきた。
それにまた腹が立つ。





「じゃあ、兄ぃは茂くん預かる資格、無いよ」





松岡のしゃんとした声が海辺に響いた。
波は静かで音も小さいから余計に大きく。


「茂くんが何で俺に電話してきたか解らないの?どんな気持ちで、どんな声で!」
「…松岡…」
「茂くんは俺に来てなんて言わなかったよ、俺が勝手に来たんだ。
―淋しいから少しだけお話ししてなんて、言わせないでよね」



その言葉に目を見開いた。

シゲだから大丈夫だと、心の何処かで安心していた。

俺が知っていたのは大人の城島茂だったから。

シゲはゆっくりと俺を見る。そして申し訳なさそうに謝った。


「ボクがいけないねん、こんな事になってしもて…たつややまつおかに迷惑掛けて…」
「シゲ…茂くんなのか?」
「ボクも解らへんのや。ボクはボクだけどボクじゃなくて…」



ボクがいつか消えてしまいそうで、怖い、と。
だから一人は嫌なのだと呟いた。

誰でも良い、たつや、まつおか、ながせ、たいち。

傍にいて、話しかけて。一人にしないで。




「ごめんなぁ…たつや。ボクふあんになって、まつおかにでんわしたん」
「俺…の方こそごめん、茂くん。俺、…子供っての理解してなかった」



いつだってあなたは自分の足でちゃんと立っていたから。
俺の助けなんて要らない、強い人だったから。

貴方のこと、俺はしっかり理解していたつもりだったけど。


バカだ俺は。ちっとも理解なんてしていなかった。
シゲだって、先の見えないトンネルの中で不安でいっぱいだろうに。

トンネルの中には灯りが無くて、手探りで出口を探してる。
灯りを求めようにも誰もいなくて、進むのも戻るのも躊躇う。


こんなこと、他に例が有るわけでも、治る保証だってないのだから。



「ごめん…、シゲ。―松岡」


俺よりもシゲを理解していた松岡にも頭を下げた。
こいつはシゲが大好きだから、ずっと見ていたから、解るんだろう。
顔を上げると松岡は照れたように笑っていた。シゲも。


「兄ぃがさ、茂くんの一番近くにいるんだから。…心が、さ」
「そーやでーボクたつやだいすきやもん」
「…俺は、茂くん!?」
「まつおかもすきーーー!!!」


いつの間にか茂くんはシゲに変わり、また子供の幼い笑顔を浮かべていた。


守らなくちゃね、戻れるまで貴方の心を。
戻れなくとも、貴方の心身には変わりないし。



今からでも、遅くないよね?

ずっと傍にいさせて。貴方をみせて。


灯りがないなら持って行ってあげる。

出口がないなら一緒に探してあげる。







俺はあなたのパートナーでいるよ。




















END


えーーーと、子供化…。ホントは可愛い子供シゲちゃんを書きたかったんですがダメでした…。
他サイトさんがかかれる子供シゲルはあんなに可愛いのに…!!









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