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+音と空間+ お前が笑う理由なんて、俺は知らない。 「(あぁ、まただ)」 笑顔でみんなと戯れた後、一瞬みせる陰った表情。 「(辛いなら笑わなきゃいいのに)」 他人のことだから、俺は何も言わない。 その人の気持ちを理解せずに言葉をおくること程残酷なことは無いと思うから。 そんなことを思う俺の気持ちを、きっとお前も知らないだろう。 井ノ原が顔を上げた時、視線が絡まった。 いつもネタにされている細目は真摯に俺を見ている。 「(笑えよ)」 俺に何を求めている。 譬え何を求められても、俺はお前が求めているものはやらない。 「(いつもみたいに笑ってみせろよ)」 そう思ってそこで初めて俺は自分の中の矛盾に気付く。 俺はあいつに求めているのに、あいつの求めるものは決してやらない。 あいつは結局は俺にくれるのに、俺は。 そう考えて微かに口の端をあげた。 「(口に出さないから悪ぃんだ)」 みんなや、俺のように、口に出して音にすればいい。 「(笑うのは辛いか。絶えず笑顔を浮かべるのは苦しいか)」 井ノ原の瞳は俺を捕らえて離さない。 それでも、やっぱり笑っていて欲しいから。 「なぁ、井ノ原、笑って」 お前の顔が一瞬苦々しく歪んでも、俺は気付かないふりをする。 井ノ原は、それでもやっぱり笑ってくれた。 「(あぁ、それでいい)」 跡切れていた空間が繋がるような感覚。 井ノ原の笑顔は、意味のあるものなのだと思った。 譬えお前が傷付いたとしても、俺はお前に笑顔を請うんだ。 「(なぁ、俺は、最低な生き物かな)」 口に出さない言葉は、井ノ原には伝わらなかった。 END 坂+井のお話。 何となく書きたかった笑顔の話。 結構気に入ってたり。 *戻* |