+   サド   +












異常と思うことが正常なのでは或りません

正常と思うことこそ異常でございましょう?





演技がかった言葉で、けらけらと笑った顔は女の子




でも、それは誰の言葉だったかなぁ。















ぐしゅぐしゅと泣く坂本に、俺はきょとんとしてしまった。



「井ノ原ぁ」
「お、う」
「俺」
「うん」
「かわいそうだったんだよ」
「…うん」



何のことを言ってるのか分からなくて、俺はただただ生返事を返すばかりだ。



(どうしたって)
(いうのさ)


「かわいそうだったんだ」
「…何が?」
「だって、本当に、何も無かったんだ」



まるで誘導尋問をしているみたいだ。



「彼氏は彼女が好きで、彼女も彼氏が好きで」
「うん」
「でもどうしたって結ばれることなんか無いんだ」
「…は?なんで?」
「だって」



そう言って坂本はまたぐしゅりと鼻を啜った。




「あれじゃ、まるで5人で恋愛してるみたい」




目を見開く。

何処が5人だっていうんだ。
相思相愛で万々歳のバンビーナじゃないか。








「彼氏は二重人格で

彼女は三重人格なんだ」






ひくり、と喉が鳴った気がした。
多分、今俺の笑顔は引き攣ってる。



「…冗談」
「…ならいいよね、凄く」



二人して呟く。
坂本は少しだけ溜息を吐いた。






「彼女の事が好きなのは、彼氏の裏側に生きてる人で

彼氏の事が好きなのは彼女の真ん中で生きてる人」




ぐるんと首を回して、坂本は俺を見た。

そしてまた、涙声。



「でも、幸せだって言うんだ」
「それが?そんな関係で?」



坂本はこっくりと頷く。



「お互いがお互いの、自分じゃない自分の報告を、相手にするんだ。
あの子はああ言ってたわ、あいつはああ言ってたよ、って」



絶句した。
とてもじゃないが想像できない。



「デートもしない手も繋がない抱き締めあったりしない。
それって、本当に幸せなのかなぁ」



ぱちん、と瞬きをする度に女の子の声と仕草は替わっていって。
「この子をかわいそうだと思うなら、もう関わらない方がいい」
低い低い声は女の子のものとは思えなかった。


「君の為さ」



にい、と笑われて世界が真っ暗に感じた。






「俺は、救ってあげたいと思った。でも救うっていうのが、精神が異常でなくなる事なら」




坂本はやっぱり大きく瞬いた。






「他の3人を殺しなさいって言ってるも同じなんだなぁ」


















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だってそれは殺人だよ。
俺は彼女に殺せとは言えない、と坂本はぽろりと涙を一粒零した。


「そんな事が許されるのかな」
「…坂本、くん」


名前を呼ぶしかできない俺は無力だね。
せめて慰めの言葉を口に出来れば、いつもみたいに抱きつければ。




「こんな時、本当にちっぽけだと痛感するんだ」




坂本はまた眼に涙を浮かべる。
しかし今度は溢れなかった。



「救えると思うほうが可笑しいんだろうけど、それでも救いたかった」
「(あぁそうだろう、あんたの性格じゃ放っておけるはずがない)」
「それはお節介なのかなぁ」
「(どうだろう、有難迷惑だったかもね)」
「可哀想だって思ったけど、全然可哀想じゃなかったのかも知れない」
「(うん、でも)」


彼女たちを想っているのか、坂本の眼は遠くを見ている。




「(でも、)」


「彼女たちは、坂本くんに会えて良かったって思ってるよ」



驚いた表情を浮かべた坂本の体が揺れて、涙が零れた。
頬を伝うでもなく真珠みたいな粒がそのまま落下する。


俺はどうしようもなく悲しくなって、
泣きたくないのに泣きたくなって、

それを誤魔化すように笑った。



「そんな面倒な事に首突っ込んで、ばかだなぁって思う。
でも、他人の為にそんな真剣になれるってのは凄いと思う」
「井ノ原…」
「滅多に居ないよ、そんなお人好し」



暫く口を結んで、ありがとうと坂本は言った。



「可哀想と思う方が可哀想だね。でも、俺はヒーローになりたかったんだ」
「…ぇ?」
「大切な友達の為に、俺はヒーローになろうと思った」



なれると思っていたんだよ。
信じれば救われると言われているように。




「(あぁ、サンダーバードか)」


「(でも)」








「俺たちには光る翼なんかない」








突き放すような響きに坂本の顔が歪んだ。

涙は何時の間にか乾いていて、それでもその瞳はきらきら光っている。





「(光)」



「(あぁ、もしかしたら)」





見えない翼を、人は持っているのかも知れない。
本当に心の底から望んだ時だけ光る翼を。




抱きしめることが出来なくとも
声を聴くことすら叶わなくとも


そんな状況ですら幸せだと言える強さ。





奇跡集め舞い降りる風。





「消去でも統合でもなく、共棲を選んだんだ」
「―幸せだと、言っていたんでしょう?」



うん、と坂本は小さく頷く。
じゃあ、と俺はきれいに笑った。



「幸せなんだよ、そんな状況でも、そんな状況だから」
「…そう、なのかな」
「そうだよ、一番の理解者が常に傍に居るんだもん」


そうだろうか、と渋る坂本の額を俺は小突いてやった。


「ダメだよ、押し付けちゃ。彼らは彼らの幸せがある。
坂本君の幸せの尺度で測って、決め付けちゃいけない」
「―…そうだな」


そう言って坂本は笑った。
すっきりとしたような笑みだった。



「ありがとう、俺、お前に相談してよかった」

「ううん、俺こそ、ありがとう」







光る翼、存在することを知れたから。








「お前は俺のヒーローだな」







屈託なく笑った坂本の背中には、翼。
その声は透明な色を持って俺に染みていく。









「(あんたこそ)」



「(俺のヒーローだよ)」








思った言葉は、勿体ないからもう少しだけ俺の中だけに。



みんなみんな不幸せを抱えて幸せを得るんだ。












届け君の心に


サンダーバード。















END




イノ+坂のお話。かいてっていったら書いてくれたんだけど
続き書いてっていわれたから無理矢理終わらせました(笑
うん、題名は鬨播がつけたんだよ、終わりを合わせるためにね。
前半点線までが光治くんで、後半最後までが鬨播が頑張りました。
















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