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+ 子供と大人の境界線 + 坂本くんは、大人だ。 俺よりもずっとずっと、大人だ。 だから、きっと俺を憐れんでいるに違いない。 時折見せる栗色の眼の奥の闇が、どうしようもなく俺を不安にさせるんだ。 「坂本くん、明日オフなら泊まってもいい?」 楽屋を出てすぐの廊下で、俺の新しいスニーカーがキュッと音をたてる。 心臓のドキドキと重なって、廊下は大コーラスだ。 まぁ、それが解るのは俺だけだろうけど。 坂本くんは前だけを見て、難しい顔でうーんと唸った。 それだけで跳ねる俺の心臓。 情けなくなるくらいに臆病な俺。 「…ダメなら、いい」 ふいと坂本くんが視線を外す。 そんなつもりはなかったのに俺の声は拗ねてるみたいに膨らんで、 坂本くんが苦笑したことによって破裂した。 「別にいいんだよ!」 「まだ何も言ってねぇよ」 今度は呆れたように溜め息を一つ。 血が引いて、体が熱くなった。 この人を前にするとふわふわと風船をつけられたみたいに、俺は落ち着かなくなる。 対等で在りたいのに、背をあわせるには風船が必要で、俺の足は地面につかない。 うんとたくさんの風船が必要なのに、坂本くんの一挙一動が、俺の風船を一個ずつ割って いく。 風船が割れる度に俺は必死にもがくんだけど、 空というプールは俺を沈ませることしかしない。 坂本くんはカナヅチだったっけ。 うん、高所恐怖症でもあったよね。 ふふっと笑って、頭に坂本くんの手の熱。 ぽんぽんとあやすみたいに叩かれて、俺は現実に引き戻される。 見上げれば、坂本くんの猫みたいな眼と俺の目があった。 坂本くんは、大人だ。 だからきっとこんなことを考えてばかりいる俺を哀れんでいるに違いない。 「剛は、剛だよ」 ふわりと優しげに眼を細めて坂本くんは笑った。 俺はその言葉の指す意味なんてこれっぽっちも、 それこそ小指の爪ほども掬えなかったけど、 何だか無性に切なくなって、坂本くんに抱き付いた。 俺はまだまだ子供だなぁって、坂本くんと一緒にいると痛いくらいに感じる。 俺を抱き締める手は温かくて、俺を受け止めた胸は意外と広くて、その腕は案外逞しい。 背とか、年とかはホントは関係ないんだよ。 俺には大人と子供の境界線なんてものはちっとも解らないけれど、 坂本くんは確かに大人で、俺は子供だった。 「坂本くんは坂本くんでいてね」 もし俺が俺のままで居ることが子供なのだとしたら、 坂本くんが坂本くんで在ろうとすることは大人であることに反することなのかなぁ。 やっぱり俺には解らなくて、でも坂本くんに訊ねるのは何だか恥ずかしくて、 きっと俺には一生解らないんじゃないかと思う。 ぎゅうと強くしがみついたら、坂本くんは応えるように強く抱き締めてくれた。 きっと優しく微笑んで、俺のこと見詰めていてくれるんだ。 でもやっぱり坂本くんは、俺のこと哀れんでるに違いない。 その考えが抜けないのは、俺が子供であることにコンプレックスを感じてるからなのかな。 俺はゆうるりと眼を閉じて、 あぁそういえば結局今日坂本くん家に泊まってもいいんだろうか、 なんてことをぼんやりと頭の隅で思った。 End... うん。何なんだろうね、これ。 取り敢えず大人になりたい剛つんと、 大人に見える坂本くんを書きたかったらしいよ(え *戻* |