+ 糸電 +









お前は結局あいつらと馴れ合う気にはなれなかったんだよ。


彼は笑う。淡々と抑揚なく言葉を紡ぐ。
それが嘲るようだったなら容易く真意を汲もうなどとは思わなかっただろう。


そんなことをしたら、自分が自分じゃなくなるようで、
解らなくなるようで、怖かったんだろう?


彼は笑う。ただ口の端を上げて。
そんなことはない、と、断言出来なかったのは、
僅かだが否定できない想いが在ったからだ。
それは拭えない想いでもあったように思う。
だから岡田はあの時、太一の誘いを断れなかったのだ。


「太一くんは…剛くんを助けたいが為に健くんを騙して坂本くんを陥れたの?」


ただ真摯に問うような響きに太一は少しだけ眉を潜めて持っていたカルテを置いた。


「だったらどうなんだ。
お前は坂本くんの手を離して茂くんの言葉を無視して長瀬の心を傷付けてきたんだろ」
「どうもせんけど…そうやな、坂本くんたちには申し訳無く思うわ」


刺を含んだ言葉にも表情を変えず岡田は淡々と言葉を紡ぐ。


「みんな優しい人たちやった。でも、その優しさで知らずの内
他人を傷付けて自分も傷付いてた可哀想な人たちでもあった」


太一は眉間の皺を深くさせて岡田から視線を反らす。


「可哀想かなんて、解らない。それでも幸せかも知れない」
「不幸せかも知れない」
「お前が裏切って此処に来たからか?」
「それは俺の決めたことやから、きっと彼らは何も言わない。ただ、」


岡田は無表情を少しだけ崩して、憂いの眼差しをそっと伏せた。


「それが身を滅ぼすことになったとしても、きっと彼らは許してくれる。
彼らの命を奪うことになっても、きっと俺を恨んだりしない。
それが優しさなのか、俺にはよく解らない」



泣いている時一緒に泣くのが優しさ?

何でも受け入れられる寛容さが優しさ?

常に冷静に正し諭してあげるのが優しさ?




「愚かだといってしまえばきっと愚かなんだろうと思う。でも、」




岡田は太一を見ながらその端正な顔を歪ませて笑った。









「彼らがあったかいの、知ってんねん。
一緒に居ると安心するの、解ってんのや」









それを知りながら手を離してしまったのは、その重要性を理解してなかったから。
こんなにも切なくなるなんて思いもしなかった。




















近くにいながら俺は直に話すということをしなかった。


彼らは俺に合わせてくれた。
慣れるまで待ってくれると、
無理はしなくていいのだと。






作ってくれた糸電話は、ただ穴を開けて糸を通すだけなのに不格好で。

白いはずの紙コップはカラフルに彩られて。

渡してくれた時の微笑みはとても優しかった。





糸が垂れていたり糸を摘んだりでやっぱり上手く伝えることが出来なかったけど、
それでも伝えられたことも多かったと思う。












糸が切れてしまった糸電話。

切ってしまったのは俺だけど、今更後悔したんだ。






伝えたいことが、まだたくさんあるんだよ。









切れてしまった糸を繋ぎ合わせたら、
例え音が籠もってしまったとしても、相手に届くようになるだろうか。






岡田は太一から視線を窓の外に移し、
すっかり暗くなってしまった空にぼんやりと浮かんだ満月には少し足りない月を
滲んだ瞳で見上げ、太一はそれを何とも言えない複雑な瞳で見た。





















End...






珍しい組み合わせを目指してみたんだが結局殆ど変わらなかった…。
ちなみに
ただ穴を開けて>リーダー
白いはずの紙コップ>長瀬
渡してくれた時の微笑>坂本くんなイメージ










**