知らないことは罪になりますか。










そんな顔をしないでください。







俺は無力だけれど、それでも貴方のために泣くことは出来る。















 -Roi de suprematie-














坂本さんのメンバーに入れた俺は、それでもあまり以前と変わらない生活を送っていた。
虐めは、なくなりはしなかったがぱったりと息を潜めた。何せ覇者が俺を助けたのだ。
それが気まぐれにしても、その俺にすぐ手を出そうなんて、そう勇気のある奴はいないの
だ。
坂本さんのグループに入れてもらったことは誰にも言っていない。
虎の威を借りる狐のようにはなりたくなかった。
剛くんは何時にも増してサボりが多くなった気がする。成績は大丈夫なんだろうかと、
思わずこっちが心配になってしまうくらいだ。
来週末にあるテストの対策について考えながら廊下の角を曲がる。
すると、鈍い衝撃が肩に走った。



「…あ、すいません!」



咄嗟に謝る。もしも勢力争いに参加している人間だったら意味はないが、もう癖だ。
しまったと思いながらも顔を上げれば、争いとは程遠い、言うなれば坂本さんとは正反対
の顔付きをしている男が立っていた。俺はその顔に見覚えがあった。

「こっちこそえらいボーッとしとって、ごめんな?」

表情と同じ柔らかな声に関西弁。そうだ、生徒会長の城島さんだ。
俺は床に散らばってしまった小箱を拾いながら城島さんを伺い見る。もう一度謝れば、
彼は怒りもしないで、困ったように笑った。

「すいませんでした。…割れ物じゃなくて良かった」
「そうやね。…ありがとお」

礼の意味が解らなくて城島さんを見れば、彼はまた柔らかに微笑んだ。

「うちの学校にもまだきみみたいな子がいたんやね」
「…何処まで、行くんです?半分持ちますよ」

何となく居心地が悪くなって俺は話題を逸らした。城島さんはまた微笑んだだけで、
深く追求はしてこなかった。
並んで歩く。俺らの間に会話はない。
校舎横を歩いているとき、いかにも悪いです、という顔をした男たち5人が俺らを囲んだ。



「生徒会長さん?こないだはお世話になったよなぁ」



頭の悪そうな発音に俺は眉をひそめた。友好的でないのは一目瞭然だ。
咄嗟に城島さんを庇うように立ったが、如何せんどうにもならない。喧嘩になったら万が一
にも勝ち目はないだろう。
男たちが姿勢を低くする。俺も重心を低くしたが、情けないことに足が震えていた。














「何…してんだよ」














急に低い声が飛び込んできた。音源を辿れば、明るい茶色の短髪のがっしりとした体格の、
それほど背の高くない男が立っているのが見えた。
城島さんが息を飲んだのが解る。理由は解らないが、二人は知り合いなのだろう。

「答えろ。何をしている」
「優等生には関係ねぇよ」

その返答に、男を取り巻く空気が変わった。突き刺さるような威圧感が、少し息苦しい。
男が動こうとして、城島さんが叫んだ。







「止めぇ、山口!!」







不良グループの一人が地面に叩き付けられるのを、俺はスローモーションで見ていた。
本当は眼に留められないくらいの一瞬の出来事のはずなのだけれど、デジャブ…。
そのシーンが、眼に焼きついて離れないのかも知れない。














「…坂本」













俺が呼べなかったその人の名前を呼んだのは、山口と呼ばれた男だった。

「俺はグループのメンバーは大事にしてるんだ。てめぇら祈っとけよ」
「どのチームだよ、お前は!?生徒会長がメンバーか?」

せせら笑う男たちを冷めた瞳で見て、坂本さんは山口さんの前に立つ。
山口さんは物言いたげな顔をしたが、結局何も言わなかった。





「チーム皇帝…メンバーは生徒会長庇って立ってる黒髪の坊やだよ!」





皇帝の名に顔色を変えた男たちを、坂本さんは容赦なく沈めて行った。
1分とかかっていないだろう。あっという間だった。

「山口、…坂本」
「元気そうだね、シゲくん。良かったね、偶々俺が通りかかってさ」
「坂本、」
「悪いけど、もう行くから。ほら、行くぞ岡田」

呼ばれて、少し躊躇したが、俺はぺこりと頭を下げると坂本さんの後を追った。
向かったのは屋上だった。やはり意味を為さなかった南京錠にほんの少しだけ同情して、
屋上のドアを勢い良く開けた。



「坂本さん!」



先に行ってしまった彼の背中を見付けて俺は駆け寄った。
驚いたのは、その横に山口さんが居たことだ。
足を止めてしまった俺に苦笑して手招きしたのは、山口さんだった。

「そう固くなるなよ。聞いてないのか?俺も覇王メンバーだから」
「え」

確かに山口という名前を聞いた気がするが、目の前の彼とは結び付かなかった。
坂本さんはにやにやと山口さんの肩をつついて、彼の定位置に腰を下ろす。
山口さんは溜め息を吐いた。

「前に、俺が教師に因縁付けられたことがあった」

坂本さんが話だす。

「喧嘩が在ったんだよ、でも俺はしてなかった。…見物だったよな」

くつくつと喉を震わせて坂本さんは笑った。
その時の様子を思い出しているのだろう、細められた瞳は普段の剣呑さを和らげていた。

「優等生のお前が問題児の俺を庇ったんだ。覚えてるか?あの教師共の顔」
「嘘はついてないけどな」
「確かに」

坂本さんは可笑しそうに肩を揺らして、山口さんは少し面白くなさそうな顔をした。

「お前はあの時確かに俺と居て、そして俺は手を出していない」

つまり、と坂本さんは俺を見た。

「こいつが喧嘩してて、俺はその場に居合わせただけ。OK?」

俺は大きく瞬き、頷いた。
俄には信じ難いが、あの時感じた威圧感は本物だったと思うからだ。

「こいつは甘ちゃんなんだよ。優等生は苦痛だってのに、敢えて演じることを選んで」
「それを言うならお前も十二分に甘いよ。お前が止めなきゃ俺がやってた」
「俺はメンバーを助けただけだ。お前とシゲくんがどうなろうと知ったこっちゃねぇ」

そっぽを向いた坂本さんを、山口さんは酷く優しい瞳で見た。
事情は全く解らないが、二人が確りと繋がっていることは感じとれた。










「お前が批難されるだけなのに、
 ―それでもお前は助けてくれるんだよな…」









だから、山口さんのその優しげな眼差しの中に憂いと哀しみを認めて、俺は余計に何も
言えなくなってしまった。



そして。







「…お前も、俺の大事な仲間だからな」







その坂本さんの言葉の温かさに、何の関係もない俺が泣きそうになってしまった。




























END





是非続きを、という感想を頂き調子に乗って書いてみました。
学園ストーリー-2.覇王-護るもの-編。たっちゃんとWリダと凸田の話。



















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