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それは押し問答のようだ、と坂本はそう思った。
彼にも答えることの出来ない事が在ったのかと少し驚く。
そかし何処かで納得していた。
彼もまた、ただの人間でしかないのだと。











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         P r o o f
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灯りが見えた森の奥に、その家はあった。
洋風のその家は何処か果てた孤城を彷彿させる。
淡いオレンジ色の灯りは、隠れ家的な様相だった。


「シゲくん、ただいま」


ギッと扉を開ければ、テーブルで城島が洋書を読んでいた。
坂本が声をかければ視線を上げる。そして止まった。


「お帰り…って、なんや、どうした?」
「別に…またちょっとつけられたからまいてきただけ」


坂本がそう言えば城島の表情が少し曇る。
それに慌てて坂本は殺してないよ、と付け足した。


「約束、まだ守ってるよ、だから大丈夫」
「その、血は全部返り血か?」
「え?−ああ、うん、腕にちょっと擦ったけど大丈夫」


城島は驚いたように坂本の腕をとる。
それにもっと驚いたように坂本は肩を震わせた。
坂本の言うとおり、刃物が少し擦っただけの小さな傷だった。
それに安堵したように城島は笑う。
もう、失うのが嫌だったから、怪我というものに城島は敏感になっていた。


「シゲくんは、失うのが怖いんだ」
「…そうやで。坂本が僕の傍から居なくなるのが怖い」
「なら、少しでも生存率を上げるために、やはり敵は皆殺しにしるべきだ」
「それは…ダメや」


城島は頑なに坂本が敵を排除することを禁止する。
坂本はその気持ちが解らないでいた。
どうして、いけないのか、心情が理解できない。
口にしてはいけないと思いつつも、一度聞いてみたいと思っていた。


「何故?だって、何時か俺は顔も知らない誰かに壊されてしまうかも知れないのに」
「殺して、どうする。その坂本が殺した人間にも家族が、友達が居るかも知れないのに」
「その家族を守るために人は戦場で敵を殺すんだよ。
情けをかけたら、逃がしたそいつが大事な家族を殺してしまうかも知れないじゃないか」
「そんなん、正義やない」


時折城島は正義だ、悪だと口にする。
坂本は善悪が解らないから、と淋しそうに笑う。
坂本にはそれが堪らないときがあった。


「ならば正義とは何、シゲくん。
人を殺さないことが正義だとしたら、無抵抗に殺されてあげることが善なのか。
ならば一人でも手にかけたことのある人間は悪、抗った人間は全て悪になる」
「違う、坂本。正義とはその感情で誰かを救うことの出来ることを言う」
「それこそ間違っている。正義とは悪が存在しなければ成り立たない物だ。
そして、誰かを救ったとき、またその裏側で誰かが堕ちるんだよ。
誰かが笑っているとき、それは誰かの涙の上で笑って居るんだ。俺たちも例外ではない」
「では悪とは何や。誰かを不幸にするのが悪だろう。ならば僕らは悪でしかないんやない?」
「シゲくんは、正義の使者にでもなりたいの?悪は、悪であり時に正義にもなるよ。
その前に聞かせて。シゲくんは、一体誰のための正義になりたいの?
万人に受け入れられる正義など存在しない。正義を悪だという人間も存在することを忘れないで」


ぎゅっと城島が拳を握る。
また否定されるだろうかと身構えて、
それが何時まで経っても訪れないことに少しだけ拍子抜けした。
言い過ぎたのだろう、それは解っていた。しかし坂本にはこの世界は解らないことらけだ。
教えて欲しかった。そして一緒に考えたかった。
それをしている間だけは、坂本は人間と変わらないような気がして。
いや、寧ろその瞬間だけは人間になれているような気がしていたからだ。
考えること、つまり思考が、ロボットにはないものだ。ひいては心が。
だから、坂本は一生懸命考えようとする。
この広すぎる世界について。複雑すぎる心について。
だが答えは出ない。どうしても、納得いくものが応えが、ない。
それは、自分が人間ではないからだろうか。


「シゲくん、この世に割り切れる物などないんじゃない?
だって正義も悪も酷く曖昧なものでしかない。正義や悪といった名称は所詮俺らの正義や悪の
定義の拠り所でしかなく自分が掲げ大多数の支持を得たものが正義となる。解りやすく言えば
警察が正義、泥棒が悪と言ったように。だって俺には解らない。言葉に惑わされているようだ。
俺はしたいようにしたいし、けどやっぱり俺にはシゲルくんが一番だから、俺は自分の意志で
シゲルくんに従うんだ」


坂本がそう言い切れば、城島は少しだけ呆れたように笑った。
これで太一が此処にもし居たならば、また小難しいことを、と眉を顰め、
そんなもんどうでも良いんだよ!と坂本の背中を力一杯叩いただろう。
達也も、それに苦笑しながらきっと坂本の頭を撫でてくれる。





「俺たちは、ここで生きているんだから」





達也だったら、きっとそう言う。
坂本は思わず口をついて出た言葉に驚きながらも、笑って見せた。











正義とは何か。










城島が坂本をそっと抱き締める。
その肩が震えているのに気付いてけれど、敢えて気付かないふりをした。
坂本は、少しだけ心の霧が晴れたような気がして、
でもどうしてか行く先が見えなくて、口の端を上げた。












正義を掲げる者の威光は時に人の闇を広げるものになる。

我々は悪を捏ち上げ、恰も己が正義であるかのように振る舞うのだ。






そう、何が正義で在るのかすらも解らぬのに。


























END












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開催期間延長とのことで、おめでとうございます(?)
あわせて小咄を書いてみました…が、意味解らなくてごめんなさい;;

                                         2006/09/09 熾双 鬨播拝
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