|
そうやって俺は心の隅っこで泣くのさ。 12月に入ったぱっかりの雨は酷く冷たくて俺の心の中までどんどんと冷たくしていってしまう。 だから、こんな状況を打ち破ってくれる人を、俺は捜している。 「(会いたいなぁ)」 空っぽの心の中で何かがからからと音をたてたみたい。 「(でも違う)」 「(これはお弁当の音)」 以前、「こんな量じゃ足りないよ!」とぶうたれた俺に、坂本君は特大のお弁当を叩きつけてきた。 そりゃあもう、挑戦状みたいに。 「(挑戦状は、美味しく戴きました)」 食べきってしまったお弁当。 空っぽになったその四角の中で、梅干の種だけがカラカラを揺れてばかり。 それがまるで、この冷たい12月にたった一人取り残されてる俺みたいで。 「(明日は、途切れない)」 今の俺にとって、それはとても酷い拷問だ。 だから、俺は助けてくれる人を捜して、捜して、捜して、捜す。 「剛!」 ちょっと驚いたような声だけど、すぐに分かった。 これは、そうだ、 「坂本君」 坂本君はスーパーの手提げを持ってビニール傘を差して、俺の前に立っていた。 俺は少し俯いて歩いていたから、今まで気付かなかったみたい。 「(でもね、アイドルがスーパーのお得意様ってのは、ちょっとどうかと思うんだ)」 そんなことを考えてると、坂本君はそのビニール傘を俺に近づけて、雨に濡れた野良犬みたいな俺をまじまじと見る。 「なんでこんな日に、傘もささずに歩いてるのさ」 大丈夫、坂本君の声は呆れてるけど、俺を責めてはいない。 「お弁当箱、返そうと思って」 にへら、という効果音つきで、俺は笑う。 「そんなの、明日も撮影あるんだからその時でいいって言ったじゃん。なんで、こんな」 坂本君の声がちょっと困ったように、泣きそうに、なった。 「ごめん」 ごめんよ、坂本君。 「…謝るくらいなら、傘くらい差してきなよ」 「うん」 うん、そうだね。 「坂本君」 「何?」 「ごめんね」 「…」 「ごめん」 「怒ってないよ」 「ごめん」 「…剛?」 ごめん、ごめんと呟いて、俺は坂本君の肩に頭を乗せた。 俺よりも高い坂本君の肩は、冷たい冬の雨のにおいがする。 「俺」 「剛」 「俺、は」 涙なんか一滴だって流れてくれないのに、俺の声はどんどん弱くなっていく。 「(今なら雨の所為だって言えるのに)」 どうして泣けないかなあ! 「(空っぽの心の中の隅っこに、俺の涙は溜まってばっかりだ)」 「俺」 「うん」 「俺、さぁ」 「…うん」 子どもをあやすみたいに、坂本君は俺の背中をぽんぽんと叩いた。 俺はその感触に、切なくなりながら少しだけ目を開ける。 坂本君の肩越しの世界は、俺の眼で見るものとはまるで別物だ。 「(坂本君)」 「(俺は)」 「(坂本君が居れば、恐くなんかないんだ)」 この冷たい雨とか、それに押し流されていってしまう世界とか、雁字搦めになってしまって解けなくなっちゃったこの心 とか。 「(ほんとに)」 絶対にやってくる明日も、どうしたって止められない今日も。 「(ここに坂本君が居れば)」 還ってこない昨日も、悲しんだりしない。 「ねえ、剛」 「…」 「ハンバーグ、好き?」 「…」 「カレーは?」 「…」 「オムライスでもいいよ」 「…すき」 「そっか」 「全部、すき」 「うん」 「(坂本君が作ってくれるんなら、なんだって)」 「すき」 「うん」 そうして坂本君はまた、俺の背中をぽんぽんと叩いた。 「行こう」 「…ん」 「作ったげるから、行こう」 「…うん」 びしょ濡れの俺の背中。 坂本君は、また叩いた。 この冷たい世界の中で、あったかい坂本君の掌だけが、俺の全て。 ビニール傘の下の、ちっちゃな世界。 「(俺と坂本君と昨日と今日と明日)」 「(大丈夫)」 お弁当箱の梅干が、一回だけ揺れた。 「(大丈夫)」 「(梅干はお弁当箱の中で、俺は坂本君の世界の中で)」 「(まだ、歩ける)」 「剛」 俺はね、本当にね、 「(坂本君が居れば、なんにも恐くなんか、ないんだ)」 12月の雨は止まない。 「(メニューが全部お子様向けだったのには、何も言わないでおこう)」 「行こう」 そうして俺は心の隅っこで小さく泣いた。 どうにも自分は皆を泣き虫にする癖があるようです。 トキハちゃんに捧げますぞ御館様ァァアアアア(何) BGM:『Re:Re:』 素材:大正ライカ様 |