+君+






リラクゼーションルームに入った時、斜め前のソファーに見覚えのある背中を見付けた。

「先客、やね」
「シゲくん」

観葉植物の陰に隠れるように座っている人物に話しかければ、彼は極僅か驚いたように目を
見開きそれからすぐに笑みを浮かべた。

「珍しいね、こんなとこで遇うなんてさ」
「仮にもリーダー二人が?」

茶化すように言えば、坂本は笑みを広げた。

「(疲れてるんやなぁ)」

決して表に出さないように努めるのは自分もだけれど、だからこそ気付くのも自分。
そして相手も。

「疲れて、るね。お疲れ様」
「そっちもやん」

僕は苦笑してお疲れ様、と返した。
色濃い疲労が見える顔は、それでも笑みを浮かべている。

「(僕も、あんな顔をしてるんやろか)」

無理をするなとは言わないけれど。
自分を心配する口煩い彼らの気持ちが少し解ったような気がした。

「どうしたの、座ったら」
「おん」

僕は坂本の隣に座った。先程は気付かなかったが彼の指で煙草が煙をあげていた。
それにまた苦笑い。彼は自分に似ているのかも知れない、と。

「火、要る?」

何も言ってないし煙草を取り出す仕草の欠片も見せてないうえ、坂本は僕の方を見ずに言う。
それの静かに眼を閉じて、僕は頷いた。
ライターを取り出そうとする坂本を手で制して、僕はポケットから煙草を取り出して口に銜えた。
坂本はきょとんとしてから僕の思惑に気付いたのか、口の端をあげてニヤリと笑う。

「(流石、洞察力はあるわ)」

坂本が煙草を口に持っていく仕草を見ながら僕は出来るだけ真面目な顔を作る。
煙草を銜えたのを見届けてから、僕は顔を坂本に近づけた。

火移しなんて、何時ぶりだろう。

煙を吸い込んで、吐く。
坂本が後ろを向いて、意地悪い顔で笑った。

「(咄嗟の演技にも合わせてくれるんやもん)」

ガタンと音をたてて、入り口に立っていた誰かが走り去っていった。
誰か、なんて分かり切っていたけど。




「疲れてるんだね」

坂本が笑う。

「こんな意地悪しなくても」
「(解ってるんやけど)」

僕も笑い返した。

「可愛えやん、アヒルさん」
「可愛い、ね」

後が面倒だと思うけど、と坂本は煙草を灰皿に押しつけた。

「俺に罪はないよな」
「何ゆうてるん、同罪やん」
「いや、俺のが軽いね」

くだらない軽口を叩きながら、僕は肩が軽くなったのを感じた。


「…ありがとう」
「おん?」

ふわりと微笑んだ坂本に僕は首を傾げた。
礼を言われるようなことはしていないはずだ。
坂本は苦笑して頬をかく。

「ちょっと…しんどかったんだ、実は。シゲくんに癒されたよ」
「(…そんなん、僕もや)」

メンバーには言えない、その気持ちが重い。
だけど君は言わなくても解ってくれるから。

「あーあ!松岡に嫉妬されちゃったかな」
「嫉妬て、お前…」
「だってあいつシゲくんのこと大好きじゃない。あいつだけじゃない、メンバー全員」
「お前やってそうやん」

坂本はそれには答えなかった。ただ微笑して僕を見る。
似てる、と思う。そして異なるとも。

「俺、もう戻るね」
「おん、頑張りや」

ぽんと肩を軽く叩いて、伝わりはしないだろう感謝の気持ちを。


「(僕の方こそ、ありがとう)」


出て行く彼の背中を見送りはしなかったけれど、坂本が後ろ手に手を振っているのを見た気が
した。


白い煙がゆらゆらと視界を彷徨く。



僕は何だか可笑しくて、顔がにやけてしまった。











―おまけ―



「リーダー、坂本くんと浮気してたんだって?」
「はあ?何ゆうとんの太一」
「マボが泣きながら荷物を詰め飛行機の時間を確認しつつ坂本くんを詛うための藁を編みなが
ら空港目指して出て行っちゃいましたよ!」
「えぇ!?」
「シゲ、あんたあいつに何したんだよ」
「…別に…」
「眼が泳いでるっすよリーダー!」
「いいから追いかけろシゲ」
「連れて来るまで帰ってこなくていいから」

バタンッ(楽屋を追い出される)

「え?ちょぉ、…はぁ」

「(何やのもぉ、松岡の阿呆!)」







END




16161HitリクエストでWリダのお話。
ギャグ、またはほのぼのということで、ほのぼのところによりギャグ(?
こ、これで良いでしょうか。リクエストありがとうございました。














おまけ
























































+僕と君と後始末+





「何しとんの?」


城島は楽屋前で蹲った坂本を訝しげに見た。
入れない、と憮然とした表情で坂本は言う。

同じ境遇に城島は苦笑した。











「あー疲れた」


バタンと楽屋のドアを開いた瞬間見計らったかのように井ノ原が坂本目掛けて
突っ込んできた。
何の構えもしていなかった坂本は見事に吹っ飛び廊下に倒れる。

「なな何すんだよ!?」
「それこっちの台詞だよ!酷いよ坂本くん!俺を放ってリーダーと浮気してたなんて!!」
「はぁ?!」

訳が解らない、と坂本が抗議の声を上げるが長野の冷ややかな視線に黙殺
されてしまう。

心なしかみんなの視線が痛い。

「何だよ浮気って…俺は誰のモノでもないっつの」

ぼそりと呟いた坂本の頭を岡田が撫でる。
優しい動きのはずなのに何故か突き刺さるようだ。


「まあくん」


ああ、まあくんなんて久しぶりに呼ばれたな、なんて感慨深く浸ってる余裕など
欠片もなく。
普段温厚で更に容姿が整ってるやつが怒ると怖いなと、頭の隅でぼんやり思った。

情けないことに涙目だ。
勘弁してくれと心の中で許しを請うが当たり前だが伝わらない。

井ノ原重いよ怒っても目がないよ、早くどいてくれ、とか、
剛はカルシウム不足だとか、健は睨んでも迫力無いなとか、
意識は無意識に逃避する。

ゆうるりとした動きで岡田の手が離れ、それに続いて井ノ原も離れた。



「じゃあ、」


長野が笑顔で手を振る。


「松岡に謝ってくるまで帰ってこなくて良いから」



目の前で無情にもドアは閉められた。






そして今に至る。




「まあ、共犯やし」

城島はからからと笑って手を差し出す。

その手を取るのは酷く容易いことのはずだったのだけれど坂本は躊躇せずには
いられなかった。



覚悟を決めて手を掴む。

松岡の奴覚えてろよ、と坂本は低く唸った。