には
踏みない 

 [アーサー・C・クラーク『失われた宇宙の旅 2001』]

































叫んだ声は、ただの音でしかなかった。











響いた音は倉庫内に反響してやけに大きく聞こえた。


飛び散った赤も、揺れた体も、ほんの一瞬。
なのに、どうしてか。そう、止まったように見えた。
右肩に一発、腹部に二発、鉛玉は確かにその体を貫いた。

いつものように二、三日行方を暗ませていた鷹山の情報を耳に入れて
来てみたら、もう其処は惨劇だった。
体格の良い男に首を掴まれた相棒の体が宙に浮いているのが見える。
右肩は力が入らないのか脇に垂らされ、左手だけで男の手を掴んでいた。
愛用のマグナムは床に落ち血に塗れ、黒のスーツも重たく濡れていた。


「タカッ」


呼んでも返事はない。
実際返事など出来る状況ではないことは理解できた。

それでも。






「タカ!!」





自分の相棒の名を、呼ばないわけにはいかなかった。












+ Credenza  +
















ぐっと低い呻き声を漏らし、
鷹山がスーツのポケットから小型のナイフを取り出し男の手に突き刺した。
男は悲鳴を上げて鷹山から手を離す。
鷹山は上手く着地できずに自分の作った血溜まりの中に倒れた。
大下は思わず飛び出しそうになって、何とか止まる。
大下の銃弾は残り二発。場を見極めて撃たなくてはならない。


そもそもどうしてこんなことになった、と、大下は唇を噛み締めた。
















朝、鷹山の姿がないことに気付いた大下は、またか、と思った。
彼が執着している女に浮気相手でも出来たのだろう。
視線をずらせば町田が何か言いたげに自分をちらちらと伺っていることに気付いた。


「何だよ透ー、俺の顔に何かついてる?」
「い、いえっ」
「じゃ、何?奢ってくれるとか?」
「な、何で俺が先輩に奢らなくちゃならないんですか!偶には奢ってくださいよ!」


すぐにムキになる町田に内心苦笑をしながら、大下はにっこりと笑みを浮かべた。


「で、俺に言いたいことって?」
「え…、あ、まぁ、別に…たいしたことじゃないんですけど」


そう前置きをして町田が話し出す。
大下はそんな後輩の姿に、今日の昼飯は何にしよう、
と思った時、町田の言葉に思わず声を上げてしまった。


「鷹山先輩に会いました?先輩、元気なかったですよ、ね?」
「はぁ!?タカが?」


ありえねー、と呟き、相棒の顔を思い浮かべる。
でも、そうだな、そんなことが在るんだとすればそれは。


「女にふられたか…」
「え、あの鷹山先輩がですか!?」


いちいち素直に反応してくれる町田の額を突っつき、大下は笑う。


「タカが年中張り付いてるから、いい加減やになっちゃったんじゃない?」


町田は、女が彼の追っている組のことだと解り、苦笑いするしかなかった。




その後大下は鷹山を探し、デートを盛り上げてやると半ば無理矢理ついてきたのだ。

その時に、気付けば良かった。


「先輩、元気なかったですよ、ね?」


後輩の言葉を、もう少し真面目に聞けば良かった。














「タカ!」








振り上げられたナイフを撃ち落とす。
鷹山が、笑った気がした。
そう、気がしただけだ。思い違いかも知れない。
それでも、大下の体は動いていた。

鷹山が男に足払いをかけ、咳き込む。
倒れた男に大下が拳銃を向け、
鷹山が左手で呆然と二人を見遣る背の高い男、梶原にS&Wを向けた。
ぴたりと心臓部分に当てられた焦点は揺らぐことがない。
鷹山はぐっと口の端を上げると、トリガーを引く指に力を入れた。


「タカ?」


波紋のない水面のように静かな殺気を、大下は確かに肌で感じていた。
突き刺さるような、ではなく、斬るような殺気だ。
鷹山はこのまま梶原を殺すつもりだ、と直感的に悟った。





「止めろバカタカ!」





パアン、と乾いた発砲音が鳴り響き、梶原が倒れる。
頬に引かれた紅い線から、血が流れた。
大下は愛銃を向けていた男を思いっきり蹴り飛ばすと、
咄嗟に押さえた鷹山の手首に力を入れた。
思ったよりも簡単に拳銃を放した鷹山の顔を覗き見る。
反動で出血が酷くなったのにも関わらず、鷹山は口元だけで嗤っていた。













「死んでない」










ぽつりと掠れる声で呟いた鷹山を大下は訝しげに見る。
確かに梶原は泡を吹いて倒れているだけで、死んではいない。
しかしそれは当たり前のことだ。
警察は、人を殺すために居るのではないのだから。


「ど、して…」
「…タカ?−タカ!!?」


焦点の合わない瞳にぞくりとした。
吐き出される息の熱さに目眩がした。
目の前で倒れた彼を、抱き留めることしかできなかった。


「先輩!大丈夫で…」
「透!現場頼むな!俺はタカを病院に連れて行く!」
「え?た、鷹山先輩!?」
「ナカさんたちにいっといてくれ!!」


動揺している町田に説明している余裕などなかった。
救急車を呼び待っている時間などなかった。

失うことは、覚悟している。けれども。


失わないですむのなら、それにこしたことはない。




失いたくないと、そう思ってしまったことを、大下は誤魔化せなかった。
















next...







何かもう何が書きたいのか自分でも解らない・よ。
ただ流血タカさんが描きたかったの さ  …   !!!笑