+  +









1.


風が砂埃を巻き上げる。
その様はまるで赤い雨が降りしきるようだ。
実際、この星に降る雨は赤い。
空気中の砂埃を全て洗い流すように降るからだ。
空母カレラはそんな砂嵐の中を進んでいた。
目指すはアーケイロンのジプスと言う小さな村だ。
道から外れないよう注意しながら進む。
道を外れたまま進めば、待つのは死だからだ。




「げっ」




空母内の計測器を見ていたイノハラが声を上げる。
ちなみにこの空母はイノハラのものではない。
サカモトが欠伸をしながらきいた。


「何」
「えー、12時の方向に生体反応有り。
……天藍龍ブルードラゴンかな」
「一匹?」


別段慌てた様子もなくサカモトは体を伸ばした。
そう、この惑星ほしには龍が住んでいる。
御伽噺や架空の生き物ではないのだ。
サカモトが視線を砂嵐の向こうへと移す。
居たのは四肢持つ蛇神、ドラゴン。
鱗は鋼鉄より硬く、牙は珪素結晶セラミック装甲をも噛み砕く。
深空色の肌が天を仰いで咆哮すれば、砂嵐は晴れた。


「この辺に水辺が在るのか…?
まぁ下位レッサードラゴン一匹だしな、出る」
「了解!」


棺桶コフィンに向かうサカモトを見送って、
イノハラは今まで一言も発しなかった男を振り返る。
ぎらぎらと射るような瞳を持つ小柄な青年だった。



「ゴウ、サカモトくんが出るぞ」



解っていると言う風にゴウは天藍龍ブルードラゴンを睨み付ける。
イノハラは苦笑して通信機に向かって口を開いた。


「サカモトくん、準備は?」
「OK、大丈夫だ」
「5、4、3、2、1、棺桶コフィンオープン!」


ガコン、と大きな音をたてハッチが開く。
そこに収まっていたのは、人型の機械ロボット
それはデッドリー・ドライブと呼ばれる鋼鉄製の操り人形マリオネット
人間をトレースした巨大な機械は、人間がドラゴンに立ち向かう唯一の兵器だ。
だがそれに乗るには素質が必要だった。
誰でも乗れるわけではない。

その男は一見普通の男だった。
長身細躯で、鋼のような強靭な肉体を持つわけでもない。
しかし男はこの惑星ほしにおいて特別だった。
DJ(デッドリー・ドライブ・ジョッキー)は、常人ではない。
凡人の反応速度の約7倍を持つといわれている。












「起きな!剛姫!」












圧縮言語コンプ・ヴォイスでその名を呼ぶ。
口笛に似た高音がその名を紡げば、燃えるような紅の機体が立ち上がった。


「ラドゥーンは?」
「反応無し。どうやらヤマグチくん、寝てるみたい」
「本戦に向けて温存ってか?ちぇ、押し付けやがって」


自室で寝ているらしいヤマグチに悪態をついてサカモトは小さく舌打ちした。
空母カレラを持っていないヤマグチが悪いとサカモトは思う。
だからこうしてサカモトの(貰い物だが)空母カレラで出掛けることにしたのに、
ヤマグチは働く気は全くないようだ。




「行くぞ、剛姫!」




ぐん、と引っ張られるようなGが体を襲い、少し酔う。
サカモトにとって久しぶりの戦闘だった。

この惑星ほしでは、人間は無力だった。
強大な力の前で何も出来ない、力なき生き物だ。
ドラゴンは今のこの惑星ほしで最も兇悪な生き物だ。
生態系の頂点に立っていると言っても過言ではない。
それでも人間は足掻いたのだ。
また、この惑星ほしで権力を握るために。生きるために。

天藍龍の体が青白く光る。
ドラゴンの肌を雷が覆った証拠だ。
相手がいくら下位レッサードラゴンだといっても
手抜きは出来ないことを、サカモトは知っていた。
龍族では最も小柄なこの龍でさえ軍艦を率いても勝てはしないのだ。
知らずのうちに口端が上がる。

サカモトは天藍龍の爪を避けるとその首筋に剛姫の愛剣、デュレッザを刺した。
そして後ろに跳躍する。
その軽々とした動きは重さを感じさせない。
天藍龍の最後の悪足掻きを避けると、サカモトはデュレッザを引き抜いた。
ドラゴンの攻撃で恐ろしいのは尻尾だ。
油断していると痛い目にあう。サカモトはそれを解っていた。
ドラゴンの生命力はとてつもなく強い。
弱点も一カ所を除いては、ない。
その唯一の弱点が、その鋭いあぎとを支える首筋だった。











「グッバイ、天藍龍ブルードラゴン!」











叫んでデュレッザを倒れたドラゴンの首筋にたてる。
ドラゴンの断末魔が響き、そして静かになった。


「お疲れー、んじゃ戻ってきてよ」
「おう」


サカモトは空母カレラに戻るとデッドリー・ドライブを棺桶コフィンの中に座らせた。
久しく乗っていなかったというのにデッドリー・ドライブは快調だった。
言ってもいないのに整備してくれた人間が居るからだろう。
サカモトは困ったように笑うと、その狭いコクピット内から外に出た。





「さっすがサカモトくん、早かったね」



イノハラに労いの言葉をかけられ、サカモトはまた苦笑い。
頬を掻いて、イノハラの隣に在ったイスに座った。


翼無き龍リンドドレイク、しかも一匹だぜ?」
「それ、自慢?下位レッサードラゴンにだって苦戦する人はたくさん居るよ」
「違ぇーよ、俺だって二匹いたらキツイ。
…俺のデッドリー・ドライブもその下位レッサードラゴンにやられたしな」


サカモトの最初のデッドリー・ドライブ
「ルーヴィア」はドラゴンによって砂漠の塵となった。
今の剛姫は三機目だ。
二機目は色々あってヤマグチに譲った「ラドゥーン」。
だがサカモトは剛姫をあまり気に入ってなかった。
まあ、金が無いので文句を言ったところでどうにもならないので我慢しているのだが。

初めてデッドリー・ドライブを手に入れた時の喜びを覚えているからこそ、
失ったときの悲しみも大きかった。
自分の半身を奪われたような喪失感。
それでもサカモトは生きていた。











「さて、イノハラくん」




小声でサカモトがイノハラを呼ぶ。
何、とイノハラがサカモトに身を寄せる。
サカモトは軽く頭を動かしゴウに視線を向け、イノハラに問う。


「あのガキ、何」
「何、じゃなくて誰、でしょ。俺の友達、で、ゴウ」
「じゃあその友達が何故、というかお前もだが何でこの船に乗ってんだよ!」
「今更じゃん!まあ色々あって。
ほら、久しぶりにマツオカたちにも逢いたいし!」


にっこりと笑ったイノハラに
これ以上何を言っても無駄だと言うことをサカモトは悟っていた。
何も言わない代わりに想い溜息を一つ溢す。
ちらりとゴウを見ると、射るような視線とぶつかった。
まるで敵意だ、とサカモトは思う。
油断していると、寝首をかかれそうな−…。



「勝手にしろ」



忌々しそうに舌打ちをしてサカモトは席をたった。







「ただ、俺の邪魔をしてみろ、イノハラでもただじゃすまねぇからな」







その場に満ちたのは、間違いなく殺意だ。
イノハラは笑って見せたが、ゴウは息を飲んだ。
サカモトの眼は笑ってなどいない。
その言葉が本気であることが解る。


「解ってるよ」
「なら、いい。見えたら教えろ、部屋にいる」
「うん、おやすみ」


サカモトの姿が見えなくなってようやくゴウは詰めていた息を吐いた。
イノハラも肩の力を抜く。
サカモトが本気になればイノハラなど一捻りだろう。
しかしサカモトがそれをしないこともイノハラは知っていた。



「大丈夫だよ、ゴウ。サカモトくんは何だかんだいって優しいんだ」



ゴウは何も言わない。
それでもイノハラはゴウを取り巻く空気が和らいだのを、
確かに感じていた。









Next...





やっぱりルビが多い…(笑
というか、話進まねぇ…!!
む、難しすぎるこの話!!どうしよう!?笑