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男は顔を上げた。

その端正な顔は油で黒く汚れていた。
男の前の前に在るのは白亜のデッドリー・ドライブだ。

男はそれを見上げて眼を細めた。


そして呟くのは、彼を救った男の名前だった。













2.




サカモトはそりゃもう最悪な起こされ方をした。
あの敵意の篭もったゴウとかいうガキにナイフを突きつけられるのも嫌だが、
自分のベッドの中に野郎が寝ている方が心臓に悪い。
眼が覚め、隣でイノハラが自分を見ながらうふうふ笑っているのを見た時、
サカモトは本気でイノハラを殺そうかと思ったくらいだ。
絶叫しなかっただけマシだといえるか。
サカモトは寝起きの自分を褒めた。
ヤマグチに見られ在ること無いこと言いふらされたら、終わりだ。
もし、彼のデッドリー・ドライブの調律師にでも漏らされたら。
サカモトはぶるりと震えて、もう一度イノハラの頭を殴った。


「何だよ一体!」
「見えたんだよジプス!」
「先に言え!!つーかこれ次やったらマジ殺すからな!?」


イノハラは頭を押さえながら涙目で返事をした。


「俺はヤマグチを起こしてくる。…それともお前が起こすか?」
「いえ!!私は空母カレラの設定を変えてきますです!!」


ヤマグチを起こすくらいだったら、
頭の痛くなるような空母カレラの整備をしていた方がマシだ。
イノハラは寝起きのヤマグチを思い出し、青くなった。
そんなイノハラを笑い、サカモトはヤマグチの部屋に向かう。















「ヤマグチ、入るぞ」





一応は声をかけてみるが無意味だろう。
部屋の主はベッドの上で布団もかけずに爆睡していた。
ちょっとやそっとで起きる相手ではないことはサカモトも重々承知だ。
さて、とサカモトは腕を捲り、ヤマグチの引いている敷き布団を引っ張った。
ゴン、と鈍い音がしてヤマグチが床に落ちる。
そしてその衝撃で起きたのか、ヤマグチがむくりと起きあがった。


「起きた?そろそろつくけど−!?」


そしてそのままサカモトを巻き込んで布団に倒れる。
ぐえっと蛙の潰されたような声があがった。


「ヤマグチー!!潰れる重い死ぬ!退け!!!」
「…ん。−マー?飯?」
「気色悪い!!耳元で喋るな!!つかマーって呼ぶな!!!
もうそろそろ着くから起きろ!!今すぐ起きないと飯抜きだ!!!!!」


サカモトがそう叫ぶとヤマグチが勢いよく身を起こした。
まだ寝ぼけ眼なのを見ると、条件反射らしい。
ふあ、と欠伸をして頭を掻き、やっとヤマグチが覚醒した。





「おはよ、サカモト。何で人のベッドで寝てんの?」





理不尽だ、とサカモトは思った。















































「おはよ、イノハラ。…と、誰?」
「ゴウ、だって。イノハラの友達らしい」


ヤマグチが見知らぬ客にきょとんとサカモトを見る。
サカモトは興味なさそうに外の景色を眺めていた。


「俺、ヤマグチ。タツヤ・ヤマグチ。
どうせこいつ自己紹介してないんだろ?マサユキ・サカモトだ」
「…ゴウ・モリタ」
「よろしく、ゴウ」


微笑んだヤマグチにもゴウはそれ以上何も返さなかった。
顔を顰めたサカモトにヤマグチは眼で合図をする。
サカモトは腑に落ちないようだったが、渋々といった様子で頷いた。
















「見えた」









イノハラがジプスの目印、サファイアの時計塔を見つけ呟く。
きらきらと輝く蒼の石は、このアーケイロン地方の鋼玉細工師ストーン・ローゼズたちが
腕に寄りをかけて創ったこの小さな村の象徴だった。




空母カレラを少し街から離れた場所に置き、サカモトたちは船から下りる。
必要最低限の荷物を持つと村へと歩き出した。
ジプスは本当に小さな村だった。

周りは岩に囲まれた鋼玉細工師ストーン・ローゼズの村。
その技術の後継者は年々減っていると聞く。
閑散とした村を見ると現状が解り、何だか少し切ない気持ちになる。
サカモトは小さな紙切れを見ながら先頭を歩く。

村の奥まった場所にその家はあった。
決して大きいとは言えない家だ。しかし趣味は悪くない。
それがサカモトたちの第一印象だった。



「ここ?」
「だと思う」


ヤマグチの問いに自信なさげにサカモトが応える。
表札がないので住んでいる人間の名が解らない。
さてどうしたものか、と考える間もなくイノハラが呼び鈴を押していた。


「こーんにちはー!!」
「はいはーい」


中から出てきたのは、家の中だというのにサングラスをかけた男。
その男の顔を見たとたんイノハラは殴りかかっていた。
しかし男の方も動く。簡単には殴らせてはくれないらしい。
そんな二人を呆れたように見て、サカモトは溜息をついた。


「ようマツオカ、久しぶり。シゲルくんは?」
「あー!サカモトくん、に兄ぃ!!…に誰?」


三度目になる問いかけにゴウは苛ついたように肩を揺すった。
それに肩を竦めてイノハラが応える。


「俺の友達、ゴウ・モリタ。ひっさしぶりー♪」
「殴りかかってくるなんて良い度胸ジャンよー細目!」
「細目!?てめーよく見ろよこのアヒル口!!」


また殴り合いが再発しそうだったのでサカモトが両方を殴った。
ヤマグチに殴られるよりかはまだましだろうと思って。
二人は頭を押さえて蹲った。





「あのさ、何時まで立たせてるつもり?」





ゴウが静かに言って、サカモトの顔が引きつったのは言うまでもない。










Next...





何だか…ゴウちゃん嫌な子?笑
なかなか話が進みませんね…;;
サカモトくんの心がとても狭いっぽい(笑