3.
「いやー、ごめんな?手が離せなかったんよ」
そう言って柔和な顔つきをした男は笑った。
その男がシゲル・ジョウシマだとゴウが気付くのに時間はかからなかった。
噂通りの男だと、そう思う。
にこやかに笑うその表情の裏で何を考えているのか皆目見当がつかない。
まあ、それに当てはまるのはゴウの隣に座る人物にも言えることなのだが。
「何?ゴウ」
ゴウの視線に気付いたのか、イノハラがゴウを見る。
ゴウは何でもないと首を横に振った。
その前ではサカモトがジョウシマに何かを耳打ちしていた。
洩れてきた音が口笛みたいだったので少し驚く。
圧縮言語。
つまりジョウシマもDJだということになる。
圧縮言語が扱えるのはDJだけで、
それを聞き取ることが出来るのもDJだけ。
「おい」
サカモトはゴウの微かな表情の変化を見逃さなかった。
ゴウは怠そうに顔を上げる。
サカモトはまっすぐにゴウを見据えていた。
「お前…DJだな?」
「何でそう思う?」
「否定しないからだ」
「何、それ…バカじゃねーの?」
「圧縮言語に反応した」
誤魔化すことも出来たが、サカモトの斬るような視線がそれを許さなかった。
別に怖いと思った訳じゃない、とゴウは誰にでもなく言い訳をする。
ゴウは短く「そうだよ」と応えた。
サカモトは短く息を吐いてジョウシマを見る。
ジョウシマは特に警戒する様子は見せない。
ならば、とサカモトは若干肩の力を抜いた。
目的は解らないが、敵には回らないだろうとそう思うことにした。
「ま、サカモトたちの目的は解ったわ。イノッチのも、何となく」
「え、ホントに?」
「ちょーっと噂が入ってきてな」
くすくすと笑うジョウシマにイノハラは空笑いを返した。
彼は鋼玉細工師としても情報屋としても一流なのだ。
敵わないなぁ、とイノハラは肩を落とした。
「で、イノハラたちの目的は俺たちに教えてくれないわけだ?」
ヤマグチがマツオカの入れてきた紅茶を啜りながら言う。
イノハラは笑って誤魔化した。
カチャリと音を立ててカップを置く。そしてヤマグチは笑ってみせた。
友好的な笑みではなく、狩る側の笑みを浮かべ。
「ただ、解ってるよな?俺たちの邪魔はしてくれるなよ?」
「解ってるって…。それサカモトくんにも言われたよ」
イノハラも紅茶を喉に流す。
緊張に喉がからからになっていたのだ。
ゴウもイノハラに倣った。
怖い訳じゃない、とゴウはまた思う。
背中を流れるのは冷や汗じゃないし、
紅茶が欲しいと思ったのも恐怖からじゃない、とそう思う。
しかし体が震えたのに言い訳を考えることは出来なかった。
「解ってるならいいさ。じゃ、サカモト、俺ちょっと出掛けてくる」
「ダメ。ヤマグチは俺の手伝いをするの!」
「えーーーーーーー」
「なら飯抜き!」
「マツオカに作ってもら…」
「飯、抜き」
にっこりと笑ったサカモトが本気だと知りヤマグチは項垂れた。
台所と財布を握っているのは事実上サカモトなのだ。
「手伝わせていただきます…」
ヤマグチはそう言うしかなかった。
ゴウはそんな二人を盗み見る。
何処にでもいそうな男たちだと思う。
まあ、顔が整っているのは認めるが。
だが、納得できない。どうして彼らなのか。
そんなゴウの視線にサカモトは気付かぬふりをした。
目的が解らぬ以上心配していても仕方ない。
泳がせておけば何かするだろう、というのがヤマグチの意見だった。
サカモトも今回はそれに従うとする。
「じゃ、シゲルくん、ちょっと出てくるね」
「あ、サカモト」
「何?」
「水辺は、此処から南南西に47キロってとこやで」
その言葉に、サカモトは頬を掻いてありがと、と返した。
ジョウシマはサカモトが何をしに行くかお見通しだったのだ。
ここら辺のドラゴン駆除の依頼が入っていることももう知っているのだろう。
「じゃあ、ついでにもう一つ」
「仕方ないなぁ。これホントは有料やで?」
「そこを何とか」
悪戯顔のジョウシマに同じような表情を浮かべ手を合わせてサカモトが言う。
ジョウシマは大袈裟に肩を竦めて、笑った。
「オーケイ、何や?」
「下位ドラゴンが二匹、であってる?」
「…僕が聞いた話によると四やったけど」
「四!?一気に倍かよ!?」
驚いたように口を開いたのはヤマグチだ。
サカモトは情報源のイノハラを睨み付けた。
イノハラは困ったように頭を掻く。
「だって俺は二匹って依頼だったもんよー」
「良かったシゲルくんに確認しといて!!
二と四じゃ全然心構えが違うんだよバカイノハラ!」
「おっかしいなー…」
首を捻るイノハラを他所に、サカモトとヤマグチは家を後にした。
ジョウシマは少し考え込むような顔をし、ゴウの視線に気付くと笑みを浮かべた。
誤魔化された、とゴウは思う。
しかし相手が相手なだけに、追及しようとは思わなかった。
Next...
…おもしろい?(きくな)
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