何時もみんなで集まったイチョウの木の下。
俺らは見てしまったんだ、彼の羽色を。
翔べないように戒めの術を施された漆黒の翼。
それは俺らと敵対する悪魔族の羽だった。
彼は俺たちに気付かず2、3度羽を羽ばたかせたが、意味のない行為だと悟っていた
のか諦めたように羽を消した。そしてきょろきょろと辺りを見回して、その場に座り込ん
だ。
俺たちを捜しているのだと、待っているのだと解った。
それでも俺たちは固まったまま動けなかった。
俺たちは天使だ。山口くんも松岡も長瀬も、俺も。
だから何処から来たのかも解らない素性の知れない彼も天使だと思い込んでいた。
悪魔だった。
俺たちに衝撃を与えるにはそれだけでもう十分だった。
今まで騙されていたのかと思うと腹がたった。みんなを見ると、松岡も同じ様に怒って
いることが解る。しかし山口くんは何かを考えているようだったし、長瀬はどこか平然と
していた。
「行こうぜ、茂くんが待ってる」
太一や松岡の心中を知ってか知らずか、山口はさらりと言って退けた。
「俺たち騙されてたんだよ!?行かなくていいじゃん!」
怒鳴る太一に頷く松岡。しかし山口は首を横に振った。
「約束しただろ」
「だって…」
「行こう太一くん」
悪魔だとは知らなかったから…そう言いかけた太一の手を長瀬が引っ張る。
松岡も山口に引きずられるように彼のもとへ連れて行かれた。
「お待たせ、茂くん」
「…達也」
「リーダーどっか痛いんですか?」
俯いていた城島が山口の声に顔をあげる。優れない顔色に長瀬が心配そうに城島の
隣に膝をついた。
「大丈夫やで、長瀬」
「でも顔色悪いっすよ」
「…長瀬は優しいなぁ」
どこか淋しそうに微笑んだ城島に太一は眉を潜めた。
彼は飽く迄も何も言わないつもりなのだ。
「天使だから、当たり前だろ」
「…当たり前、かぁ」
太一の言葉を反復した城島の瞳は此処じゃない何処か遠くを見ていた。
彼は自分たちをその眼に捉えようともしない。
「そうやね。当たり前やね」
「…嘘付き」
感情を抑えられなかった。考えるよりも先に言葉が出た。
「何が当たり前だよ悪魔のくせして!俺ら騙して楽しかったかよ?!」
「太一…」
彼の眼は大きく見開かれ、そしてゆっくりと閉じられた。
「知ってたんか…」
「残念ながらさっきまで気付かなかったよ。あんたの羽色見るまではさ!」
「…騙しとったわけじゃないで。僕は何も言わなかった」
その言葉に頭に血が昇るのを感じた。手を出さなかったのが奇跡だ。
「…でも、楽しかったわ」
薄い笑みを浮かべて城島は立ち上がった。
「リーダー」
長瀬が歩き出した城島の腕を掴む。バチリと電気がとんだ。
「…相容れないんやね」
眼を細めて、城島は笑った。
「僕は黒やもん。白が混ざったとしても白にはなれんのや」
眩しそうに、そして少し羨ましそうに長瀬を見る。
好きでこの羽色を選んだのではないのだと彼は淋しそうに囁いた。
「…黙ってて悪かったとは思ってん。―ありがとな、楽しかったわ」
「リーダー…」
長瀬は手を伸ばしかけて、引っ込めた。
触れることは叶わない。また反発が起こってしまうから。
「リーダー」
「ありがとう、長瀬」
「リーダー!!」
引き留めないと、と長瀬は焦った。
このまま行かせてしまったらもう二度と会えないような気がして。
「行かないでよリーダー!ねぇ太一くんたちも何か言ってよ!」
泣き出しそうに顔を歪めて長瀬は太一にすがりつく。
太一には簡単に触れられるのに、どうして。
手を伸ばせば触れられる距離の筈なのに、彼との距離は触れられない程遠かった。
「さよなら」
微笑んで背を向けた彼を引き留める術はなく、長瀬は無力に立ち尽くすしかなかった。
反発が起きて辛いのは悪魔の方だと解っていたから、長瀬にはどうしようもなかった。
傷付くのが自分だったなら、何が何でも止めたのに。
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