-幸せの定義-









長年争っていた悪魔族と天使族は膨大な犠牲の上一時休戦というカタチをとった。

それから560年、今でも休戦は続いていた。

しかし悪魔族―その中でも実力にしてトップクラスの二人―は気付いていた。
その休戦が終わろうとしていることを。
まだ一般市民には伝わされていないようだが、着実に天界の上層部は戦いの準備を整えて
いた。


悪魔族を根絶やしにするためにー…
















緑が活き活きと映える晴天の下、高い塔の最上階の部屋の中。
城島は溜め息を吐いた。それを長野は心配そうに見つめている。
桜並木の下、話し合っていたのはこの二人だった。
二人の背中には漆黒の翼があり、正真正銘の悪魔だということが解る。
しかしその羽根は疲れたように垂れ下がっていた。


「仲間、裏切ることになるなぁ」


ぽつりと城島が洩らすと、長野はただ首を横に振った。
城島は微笑む。長野の言いたいことは解っていた。

どうせ死ぬしか道は無いのだから、と。

天使族の聖域が広がっていたことに気づけなかった悪魔族のミスなのだ。
生死をかけた戦いの中、ちょっとした見逃しも許されなかった筈だったのだから。


だから、みんなどうせ死んでしまうなら。


彼の為に、死のうと。
彼の為に死んでもらおうと。

城島たちはそう考える。



彼には、仲間がいた。家族のような、仲間。
自分たちが争っている天使族。それが彼の仲間。

彼は、悪魔でも天使でもなかった。
彼は、混血。悪魔と天使のハーフ。
彼の羽色は黒と白。片方ずつ色が違う、混血種独自のモノ。

でも、彼の暮らす世界は、此処。日は短く、すぐに闇に覆われてしまう魔界。
笑顔の眩しい心優しい彼が、こんなところで殺されていいわけがない。

それは城島の只の我儘なのかも知れない。それも、本人は理解している。
それでも。どうせこのままでは助からない悪魔族の命なら、捧げましょうと。




彼を、天使に。




そうすれば彼は死ぬことなく、そして戦争が終わったら、天界で仲間と友に暮らすことが
出来る。





彼にはー…長瀬には、岡田のようになって欲しくなかった。





岡田も混血種だった。混血種は一方の種族を殺すことによって他方の種族になることが
出来る、稀な存在。

岡田は戦時中天使を殺し、悪魔になった。
彼にも天使族に仲間がいた。その天使族を彼は傷つけてしまった。
戦争なのだから、仕方ないことなのに。殺さなければ殺されてしまう。

なのに、優しい岡田は割り切ることが出来なかった。



城島も長野も今の地位は殺すことによって手に入れたモノだ。
優男に見られがちなその容姿を何度恨んだことか。

やられなければ、やらないのに。

それでも何千何百という生けるモノを、殺して生きてきたのだ。




岡田は自ら命を絶った。

優しい、悪魔だった。

そんな彼のために、城島や長野だけでなく、天使も又涙したのだった。
まーくんと慕っていた天使族の部隊長坂本や、その部下たち。細目の井ノ原、無愛想な剛、
明るい健。
そして長瀬も。器用な山口、つれない太一、お節介な松岡たちをまるで家族のようにしたっ
ていた。

混血種には家族が居ない。どうして混血種が生まれてくるのかも実は解っていなかった。
500年に一度生まれてくるか来ないか。混血種は珍しいのだ。
そんな長瀬に、城島も長野も幸せに暮らして欲しかった。
だから、この最後の戦争を逆手にとって、彼だけは。
ただ静かに幸せに、天界で自然と光に囲まれて育って欲しかった。


「最終決戦までもう一ヶ月無いよ」
「解っとる。―文献は見付けた、解読も出来た」
「じゃあ、あの唄は本当だったんだ…」


城島は静かに肯いた。
長野は微笑んで立ち上がった。行こう、と城島を促す。


「時間がないんだ。ばれないようにやらなきゃならないんだし、もう準備を始めよう」
「―…おん」




城島は長野の後を追って部屋を後にした。

ふわりと風にカーテンが揺らされ、机の上の紙が舞った。


白い封筒だった。
まるで天使の羽根のように軽やかに舞い、そしてまた元の位置に戻った。



刻が来るまで。其処に在り続ける。







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悪魔天使の話。長瀬と城島が悪魔っていうのがアンケにあったんで。
勝利兄さんたちでてきてしかも暗い話になりましたが。