ついに始まった最終決戦。しかしそれは呆気ない終わりを告げることになる。
始まったと同時に悪魔軍全体を囲った魔法陣が発動し、悪魔は跡形もなく灰になった。
たった一言の言葉で、この戦争は終わりを告げたのだった。
この状況には天使軍も混乱した。彼らの仕業ではなかったから。
城島と、長野の仕業だった。
それは戦いの始まる少し前―…
「茂くん、何処行くの?戦争始まっちゃうよ!」
「ええから、こっち来い長瀬!」
「でも…」
長瀬は城島に連れられて捻れの森の最奥に居た。この森は軍の待機場から大分離れて
いて、待機命令を受けていた長瀬は焦っていた。
それでも強く言えないのは相手が城島で、待っていたのが長野だったから。
大好きな仲間であり、尊敬する上司でもあったからだ。
そして、彼らがいつになく真剣な表情をしていたから。
「良いか長瀬、この魔法陣の中に立って僕らが詠唱を終えたらこの一言だけ叫んで」
「待って長野くん、コレ何すか?」
「長瀬は知らなくて良いよ」
いつものように微笑んだ長野に長瀬は眉間に皺を寄せた。
知らなくても良い?自分が、彼らがこれから何をするのか知る権利はあると思う。
「何するんすか?」
「大丈夫やから」
「まさか、茂くんたちも太一くんたちを傷つけるの!?」
裏切り行為だ、と思った。
確かに彼らは悪魔だから、天使は敵なのだけど。
仲間、じゃなかったの?
「せやから大丈夫やて、長瀬。太一たちには何の問題もない」
「そ…かぁ…ごめんリーダー」
「ええよ、気にせんとき。大丈夫やから、気にしないで」
「うん…」
ほっと息をついて長瀬は大人しく魔法陣の中に入った。
すると城島と長野が何やら詠唱を始めた。
長瀬の周りの魔法陣から光があがり、それに呼応するかのように軍の待機場所を囲むよう
に地と空に巨大な魔法陣が現れた。
地面が揺れ風がモノを裂いていく。
「「長瀬!!」」
城島と長野の叫びにはっとし、長瀬は託された一言を唱えた。
「Everlasting!!」
その瞬間世界が割れた様に揺らぎ、そして静寂が訪れた。
たった一瞬だった。辺りが強い光に包まれ、白と黒の二色に分かれた。
消えたのは、黒だった。
長瀬は状況が掴めずにいた。不安そうに二人を見て、そして羽根の痛みに顔を歪めた。
火傷しそうに熱く、凍傷になりそうな程冷たかった。
「太刀が闇を切り裂いて、館が光を受け入れる」
「混じりは浄化、羽色は願い白を抱く」
「郷の彩は朱を増し、聡い礼は頭を垂れる」
長瀬の耳に聞こえてきたのは優しく、何処か淋しげな旋律だった。
唄っているのは、城島と長野。
彼らのハーモニーは長瀬の心を落ち着かせ、痛みを和らげた。
「茂…くん?」
長瀬が呼ぶと城島は微笑んだ。
長野も笑みを浮かべたまま長瀬に羽を見るよう促す。
長瀬は訝しげに背中を見、そして驚愕した。
背中に生える両羽は、白だった。
純白のそれは、今まで片方が漆黒であった欠片さえも感じさえない程白く。
それは長瀬の憧れた天使の象徴で。
長瀬は満面で喜びを表し、しげしげと羽根を観察していた。
これで、太一くんたちと一緒に遊べる。
マボのご飯も何時だって食べられるし、山口くんの愛犬とだって遊べる。
嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
だから、長瀬は城島と長野の異変に気付けないでいた。
長瀬は知らない。
混血種がどちらか片方になる術を。
長瀬は知らない。
彼らの唄った詩の、意味を。
「長野くん、リーダー!!ありがと!!!…ぅ…?」
喩えるならば、太陽。
その笑顔はあまりに屈託無く眩しすぎる。
だから、天界で笑っていて。
自分たちのために涙なんか流さなくて良い。
「ど…して?何で!?」
長瀬の笑顔が曇り、その目には困惑の色が浮かんだ。
振り返った長瀬が捉えたのはうっすらと消えかかった二人の姿。
辛うじて姿を留めているけれど、消えてしまうのは時間の問題で。
後ろの景色が見えてしまうその体を目に映そうと、長瀬は必死になって目を凝らした。
気付くべきだったのだ。「大丈夫やから、気にしないで」と彼らが微笑んだときに。
彼らの笑顔の奥の意図を。
何が大丈夫なのか。彼らが消えてしまうなんて聞いてない。
何が嬉しいのか。そんな犠牲の上の幸せなど。
「やだよ!!こんなの嬉しくない!!!」
だって俺が喜んだのは、彼らも一緒だと思っていたから。
何時だって二人は俺に優しかったんだ。
ばかやって失敗ばっかの俺を見捨てないで傍にいてくれて。
何時だって二人は笑っていたんだ。
今のように、優しく。
「僕らが、長瀬の羽根になるねん」
「お前には光の下で笑っていて欲しいから」
心配ないよ、と微笑む。
優しすぎて涙が溢れた。
これでお別れじゃない。
僕らは君の羽根になる。
何時でも君と共にある。
青空の下、雪の中、笑っているときも泣いているときも。
君が空を飛ぶのなら、僕たちは風を切り、
君が立ち止まるのなら僕たちは君を包み込もう。
「これからもずっと一緒だ」
「何時までも、共に在るから」
「長野くん!!茂くん!!」
それが最期の言葉なのだと悟った。
だけどどうしようもなく。ただ呆然と彼らが消えていくのを見ているしかなかった。
風が一陣吹き抜けて、まるで風が彼らを掠っていったかのように思えた。
それだったらどれだけよかったか。ただ追いかけるだけで良いのに。
でも、追いかけることは許されない。
彼らが願ったのは自分が生きることだったから。
涙が溢れた。
拭っても拭っても次から次へとこぼれ落ちて。
長瀬はまだ彼らの温もりが残っている土を握り締めて咆哮した。
願ったのはたった一人の幸せ。
これは、彼にとって幸せ?
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題名は何となく。幸せの定義って一人一人違うと思う、んですけど。
こういう思想を題にするのは難しいなぁって話ですよ(違う

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