2.
窓から日が差し込む。
それは薄いカーテンで遮られてもなお眩しかった。
むくり、と起き上がり時計を探し、またベッドに寝ころんだ。
時計の針はすでに10時半をさし、学校は完璧遅刻だった。
また担任にネチネチ言われると思うと気が重くなったが、それも毎度のこと。
剛は大欠伸をしてからのろのろとベッドを降りた。
リビングに快彦の姿は見当たらない。
そう言えば今日は1限からだって言ってたっけ。
遅刻しないようにとか何とか言ってたなぁ。
あまり上手く働かない思考を巡らせながら、剛はもう一度欠伸をした。
「もぅ、剛は遅刻ばっかりなんだから!留年しても知らないからね!」
きんと耳に響く大声を出され剛は顔をしかめる。
健はそんな表情に気付いているのかいないのか、更に大声で続けた。
「一緒に大学いくんでしょー?!
嫌だよ俺まで留年なんて!ねぇ聞いてるの剛ぉー!?」
「あーうるせぇ…」
煩そうにひらひらと手を振って健を黙らせ、剛ははぁと溜め息を吐いた。
体が重い気がする。心が重いのかも知れない。
何だか今日の天気のように重々しく、不安定だ。
ひらり、と漆黒が剛の髪を撫でて消えた。
ざあぁ、とまるでバケツをひっくり返したような大雨の中を快彦は歩いていた。
その顔に生気はない。
ふらふらとゆっくり、まるで雨が降っていることにさえ気付いていないようだ。
「坂本くん…」
辛いよ、と呟かれた掠れた声は
雨がアスファルトを叩く音にかき消され本人の耳にすら届かない。
坂本くんも、怖かった?
虚ろな瞳から流れるのは雨なのか涙なのか、本人にさえ解らなかった。
「坂本くん坂本くん坂本くん、さかもと、くんっ!!」
全身を黒に包んだ坂本が視界に入り、
快彦は親を見つけた子供のように駆け寄る。
傘さえも黒で統一され、胸元の唯一の白のシルバーアクセサリーが際立って見えた。
快彦は坂本にすがりつくように膝を折り、濡れた瞳で彼を見上げ、口を開く。
小さい、本当に微かな音声だったが、坂本の耳はそれを拾った。
「なら、止めるか」
厳しい眼付きで坂本は快彦を見下ろす。
その言葉に快彦は眼を見開いて息を詰めた。
「今なら、まだ大丈夫だ井ノ原。俺はお前を帰してやれる」
「…かもとくん、嫌だ、俺を置いていくの?!」
「なら、耐えろ。人は知らずのうちその痛みに慣れる。そして忘れる」
快彦はぎゅっと眉を寄せ、それでも頷いた。
それは、悲しみを湛えた瞳だった。
「辛いなんてもう言わない。
だから、坂本くんも俺を置いていくとか言わないでよ」
「あぁ、解った」
「約束、だからね」
「約束する。
――今日はよくやったな、井ノ原。報酬は口座に振り込んどくから」
くしゃくしゃと頭を撫でられ、井ノ原は破顔した。
そして濡れているのを忘れて飛び付き、坂本に鉄拳をお見舞いされた。
井ノ原は忘れていたのだ。
今日井ノ原が熟した任務を。
その人たちの名を。
だから井ノ原は笑えた。
だから坂本も、笑った。
*戻*Next...*
うん、咄がおかしな方向に。
まぁ、いいじゃん、好きだよ裏業(嗤)
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